玉響のメロウ

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「今度、作ってあげる」

　ポソリと少女が呟く。
　意識は、再び潮風の吹く窓辺に戻っていた。

　幾度となく繰り返してきた言葉。
　そんなこと、当時の少女は言わなかったかもしれない。記憶の風化が生んだ虚言かもしれない。そもそも、あの時間だって存在しなかったかもしれない。

　けれども、約束は約束だった。
　スープと水面は全然違うって、教えてあげなきゃいけないんだ。

　窓枠に頬杖をついて、少女は考える。テーブルに載ったスープはとっくに冷めていたが、そんなの構いやしなかった。

　クルミのスプーンですくって、ひとくちだけでも食べさせてあげたら。
　あの青白い、ほぼ半透明の肌も、桃色に染まるだろうか。

　タイム、オレガノ、ローズマリー。
　琥珀の海をゆったりと泳ぐ。湯気が立ち上る。

　ジャガイモ、タマネギ、ニンジン。
　冷たい波の下に沈んでいく。潮の匂いに混じって、悲しみが立ち上る。