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 その日、明け方に目が覚めると、私はすぐ卵の前に向かった。寒い朝だった。温度は大丈夫だろうか?  そこには、父がいた。父は発泡スチロールの箱の前で、腕を組んで見守っている。  仕事、まだ行かなくていいの? と訊こうかと思ったが、やめておく。  私は父の横へ割り込むようにして、卵をのぞきこむ。父はすっと場所をあけてくれた。  私も父も、黙って卵を見つめる。  静かだった。  ただ静かに、父と私、二人の時間が流れた。  はっと息を呑む。目の前で、卵がふるえ始めたのだ。 「見ててごらん。もうすぐ生まれるぞ」  父がささやいた。私はうなずく。  静かなのは、好きだ。田舎にもいいところはある。なんとなくそんな風に考えた。  卵が動く。私は目を凝らして見つめる。  耳が痛くなるような静けさの中、卵の殻にひびが入っていく。    了
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