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「鶏を育てよう」  父が鶏の卵をもらってきたのは、そんなある日のことだった。 「孵化用の有精卵だ。知り合いにもらったんだ」  父は嬉しそうに話す。 「世話が大変なんじゃないの?」  母が心配そうに言う。 「そんなことはないさ、簡単だよ。それに、鶏を飼えば毎日新鮮な卵を食べられるぞ」 「いやよ」  私はそう口走っていた。  父の動きが止まる。 「なんでそんなこと、相談もなしに決めるの?」  いろいろなことが頭をよぎって、自分を止められなかった。 「いつもそう! 父さんは何でも勝手に決めちゃってさ」  目が潤んでくるのがわかる。我慢できずに、声が大きくなる。 「私、こんな田舎に来たくなかった!」  私は一気に喋った。興奮で耳が熱い。 「鶏のことなんて、私、知らないから」  父は言った。 「好きにしろ」  私は無言で自分の部屋へ駆け込んだ。
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