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夜、私がベッドで横になっていると、誰かが寝室へ入ってきた。すぐに父だとわかった。
「寝てるか? アヤネ」
話したくない。私は狸寝入りを決め込んだ。
父は静かな口調で話す。
「いつも仕事ばかりですまない、ずっとそう思ってた」
父がそんなことを言うなんて、初めてのことだ。私は驚く。
「鶏の世話をしたら、二人の時間が増えるかな、と思って」
父は最後に、
「アヤネと、もっと話がしたいんだ」
そう言うと、静かにドアを閉め、去って行った。
私は思う。いつからだろう、父とまともに口を訊かなくなったのは。
いつからだろう、父を疎ましく感じるようになったのは。
時期も理由も、覚えていない。なぜか私は父を避け、閉じこもってしまった。固くて、冷たい殻の中に。
私は一つため息をつく。父のことを許したわけではないけれど、鶏の世話くらい、してやるか。
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