0人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
ピーッピッーピッー
夜中の23時。ドラム式洗濯機が洗濯の終わりを知らせてピタリと止まる。
おれはすぐにスタートボタンを押す。何度目かは忘れた。
しかしその洗濯機は動き始めなかった。
もう一度押すが動かない。
自然と涙が溢れ出てくる。
おれは涙で歪んだ洗濯機を何度も叩く。
叩いたら解決するんだろ?
夏まで壊れないんだろ?全て君が言ったことだぞ。
洗濯機は沈黙を続ける。
君がいる世界で立ち上がりたいんだ。君がいない世界なんて静かすぎる。そんなことなら、俺の腕も治らなくていい。
包帯の巻かれた手で洗濯機を叩こうたしたその時だった。
「違う違う。叩き方にもコツがあるんだよ」
その腕を掴んで止めたのは君、飯田だった。
相変わらずその手は細い。
「なんで……飯田がここにいるんだよ。幽霊か何かか?」
俺は涙目で震えた声で言った。
「そんなのどっちでも良くない?鈴木はさ、洗濯機を叩いたらどんな原理で動き出すか気になるの?」
「いいや。動きさせすればいいと思う」
君はいつものように笑う。
「ここにいると思ったよ。今日は顔出したの?」
「行けるわけないだろ。こんな時に」
「へぇ私のこと心配してくれてたんだ」
「当たり前だろ」
おれは恥ずかしくなって何も入っていない洗濯機を覗く。そして顔をつたった涙を拭き取る。
「明日から五月で男子がここを使う番なんだ。だからこの洗濯機の使い方を教えてくれよ。あと直し方も」
「もちろん。そのために来たんだから」
おれらはボロボロの洗濯機の前に肩を並べる。
いざ近づいてみると、心臓がドキドキした。
「まずは中になにも入っていないか確認する!これ結構大事。次に洗濯する物を入れて閉める。洗濯が始まるとドアは開かないから気をつけて。あとはボタンを押すだけだよ」
「なるほど案外簡単だな」
すると君は何かを思いついたのかにやりと笑う。
「じゃあ試しにやってみるか!」
君は机の上の退部届けを手に取ると、洗濯機の中に放り込んだ。そしてドアを閉め、そのままボタンを押した。
「おい、やめろ」
「見ててね鈴木!叩く時はこう!」
君が思いっきり叩くと、その洗濯機は鼓動を刻みだした。
最初のコメントを投稿しよう!