君の心臓はまるで洗濯機

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ピーッピッーピッー  夜中の23時。ドラム式洗濯機が洗濯の終わりを知らせてピタリと止まる。  おれはすぐにスタートボタンを押す。何度目かは忘れた。     しかしその洗濯機は動き始めなかった。  もう一度押すが動かない。  自然と涙が溢れ出てくる。  おれは涙で歪んだ洗濯機を何度も叩く。  叩いたら解決するんだろ?  夏まで壊れないんだろ?全て君が言ったことだぞ。  洗濯機は沈黙を続ける。  君がいる世界で立ち上がりたいんだ。君がいない世界なんて静かすぎる。そんなことなら、俺の腕も治らなくていい。  包帯の巻かれた手で洗濯機を叩こうたしたその時だった。 「違う違う。叩き方にもコツがあるんだよ」    その腕を掴んで止めたのは君、飯田だった。  相変わらずその手は細い。 「なんで……飯田がここにいるんだよ。幽霊か何かか?」 俺は涙目で震えた声で言った。 「そんなのどっちでも良くない?鈴木はさ、洗濯機を叩いたらどんな原理で動き出すか気になるの?」 「いいや。動きさせすればいいと思う」  君はいつものように笑う。 「ここにいると思ったよ。今日は顔出したの?」 「行けるわけないだろ。こんな時に」 「へぇ私のこと心配してくれてたんだ」 「当たり前だろ」  おれは恥ずかしくなって何も入っていない洗濯機を覗く。そして顔をつたった涙を拭き取る。 「明日から五月で男子がここを使う番なんだ。だからこの洗濯機の使い方を教えてくれよ。あと直し方も」 「もちろん。そのために来たんだから」  おれらはボロボロの洗濯機の前に肩を並べる。  いざ近づいてみると、心臓がドキドキした。 「まずは中になにも入っていないか確認する!これ結構大事。次に洗濯する物を入れて閉める。洗濯が始まるとドアは開かないから気をつけて。あとはボタンを押すだけだよ」 「なるほど案外簡単だな」  すると君は何かを思いついたのかにやりと笑う。 「じゃあ試しにやってみるか!」  君は机の上の退部届けを手に取ると、洗濯機の中に放り込んだ。そしてドアを閉め、そのままボタンを押した。 「おい、やめろ」 「見ててね鈴木!叩く時はこう!」 君が思いっきり叩くと、その洗濯機は鼓動を刻みだした。
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