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ガタンガタン
「こんなんやったら、壊れるに決まってるだろ!」
「鈴木……最後だからさ……話きいてくれる?」
最後なんて君の口から聞きたくなかった。でもそれが嘘じゃないことは目を見ればすぐ分かった。
君はポケットから一枚の紙を取り出す。
「これ…こないだ言ってた診断書。見ればわかると思うけど、夏までもつってのは嘘なの」
おれは一秒たりとも目を逸らさずに君を見つめる。
「だからね、前の鈴木の病人扱いは間違ってなかったんだよ」
それは違う。あの時の君は夏まで生きる人間だったんだ。叶うなら今もそうであって欲しかった。でもそれすらも既にわがままに変わっていた。
いや、わがままでもいい。君を求めていいだろ。
「お前はまだ死なない!明日もその次の日も!」
おれは君から診断書を奪い取ると、洗濯機のドアを力でこじ開けてそれを投げ入れた。
二枚の紙はふやけて粉々となり混ざり合う。
ガタン!ガタン!ガタン!
ドアが破損したから、洗濯機の音は何倍にもなった。これじゃあ会話もままならない。
だから聴覚以外で情報を探る。
ガタン!ガタン!ガタン!
君は大声で笑っていて、おれも大声で笑う。
それでいて君は泣いていて、おれも泣く。
トクントクントクン
君を抱きしめると、心臓の鼓動が伝わってくる。
この洗濯機とどこが同じなんだよ。
洗濯機からこんな可愛い鼓動が聞こえてくるはずがない。
だから君の心臓はこのドラム式洗濯機じゃない。
次の瞬間洗濯機はピタリと鼓動を止めた。
おれはすぐに駆けつけ、さっきの君の真似をして叩く。まだ泣いている。
洗濯機は黙ったままだった。
「なぁ飯田。動かないぞ…また直してくれよ」
「うん…いいよ」
彼女はおれの背後に近づくと
「めそめそすんな!頑張れよ鈴木!」
と言っておれの背中を二回叩いた。
「痛っ!」
おれが振り返ると君はもう居なかった。
最後に君の顔は見れなかったけど、きっといつもみたいに笑ってたのだろう。
人生で一番うるさくて、一番静かな夜だった。
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