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おじさんはその後出て行った。
おれは縦型の洗濯機から少し離れた場所に立つと、息を整えて静かに見えないボールを放った。
見えないボールは綺麗な放物線を描きゴールへ吸い込まれる。そして小さくガッツポーズをした。
カゴを洗濯機の前に運ぶ。
「さてまずは中に何もないかを……」
おれは驚いた。
縦型の洗濯機の底を見ると、見えないボールともう一つ、綺麗に折り畳まれたハンカチがあった。
おれはハンカチを手に取ると「ちょっと待ってね」と心の中で呟く。
そして洗濯機にさっさとビブスを投げ入れて、スタートボタンを押し、洗濯機にもたれながら座り込んだ。
このハンカチを開いたら君の喀血した血がシミとなって現れるんだろう。その時の現実に向き合うのがとても怖いんだ。
でもその恐怖に向き合う勇気をくれたのは君だ。
だから今は怖くない。
おれはゆっくりとハンカチを開く。
綺麗に折り畳まれたハンカチの中には、一つの切れたニサンガが挟まっていた。
最新の洗濯機はすごかった。縦型の洗濯機は小さく静かに鼓動を刻んでいる。その振動と音が背中に伝わる。
トクントクントクン
「まるで君の心臓みたいだ」
おれは切れたニサンガを手首に結ぶと、青春の静けさの中で小さく笑った。
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