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時間が経過が恐ろしく遅かった。
このブザーをもっと近くで聞いていたときは、時間なんてあっという間に過ぎていたのに。
いっそのこと寝てしまおう。
そう思い腕が痛まない姿勢で机にうつぶせようとしたその時だった。
「おーい」
外から活気のある声が聞こえた。
咄嗟に顔を向ける。
「悪いんだけどドア開けてくれない?今両手が塞がってて」
君は確か……同じ三年生で女子バスケ部の飯田。君がなんでこんな所に来るんだ?
おれは不思議そうな顔をしてドアを開ける。
「いやぁ悪い悪い。助かったよ」
君はビブスが沢山入ったカゴを下ろし、ふぅと一息を整えると
「あれ、鈴木じゃん!怪我をしたとは聞いたけど、なんでここにいるの?」
おれは元の椅子に座ると、これまでの経緯を全て話した。
全てを聞き終えた君は、おれの目の前のドラム式洗濯機にさっさとビブスを投げ入れる。
「顔出してやればいいのに!あいつら心配してたよ」
「あいつらがやりずらいだろうってのは確かに杞憂かもな。でも行きたくない理由は他にもあるんだ」
「あ、ちょっと待って」と君は口を挟む。
そして洗濯機の扉を閉めスタートボタンを押す。そのドラム式洗濯機は古いせいかガタがきており、彼女が「動けっ」と数回叩いたあとに動き始めた。
彼女は洗濯機にもたれながら床に座りこんだ。
「ごめんごめん。さぁ話の続きを聞かせて」
「現実に向き合うのが怖いんだ。きっと皆は元気よく向かい入れてくれるんだ。でもそこで直面する『もう大会には出られない』という現実に耐えられる自信がないんだ」
「……。バスケは嫌いなっちゃった?」
「嫌いになるわけない。だからこそ『それ』が怖いんだ」
「でも……」
今度はおれが口を挟む。
「分かってるさ。怪我は仕方ない事だし、それでも仲間を支えるべき立場にいる事も全て。だからこそ逃げ出している自分が吐き気がするほど憎いんだ。」
「うん」
今にも壊れそうなドラム式洗濯機はガタンガタンと音を立てる。
その中で二人は沈黙を続ける。
それでいい。君は肯定もせず否定もせずに洗濯の終わりを待てばいい。
めそめそした包帯男なんか放っておけばいい。
体育館から聞こえてくるブザーはこれ以上大きくあって欲しくなく、だけど耳には届いて欲しい。
そんな自己中心的な静けさの中で俺は存在していたい。
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