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「え?」
「笑ってよムードメーカーさん」
君は心臓の病気を持っていた。
「それ本当?」
「本当だよ。今度診断書持ってきてあげるよ」
また君は背を向けて洗濯物をカゴに入れていく。
「ねぇ鈴木……この洗濯機毎日使ってたらいつ頃壊れると思う?」
その質問には答えたくなかった。
おれは咄嗟に話題を逸らす。
「さっきは悪かった。おれこそお前のなにも知らないのに。ごめん」
「質問に答えてよ」
おれは沈黙を続けた。
そのドラム式洗濯機は次ボタンを押して動かなくても納得するほどのものだったからである。
そして君はビブスの入ったカゴを「よいしょ」と持ち上げ、「答えないなら、もう行くけど?」と不満げな顔でこちらを睨む。
「大会前には壊れる……多分」
それを聞いた彼女の顔は見ていない。見たくなかった。
しかし次に聞こえてきたのは、またもや騒音レベルの晴れやかな笑い声だった。
「ははは!そんな短命じゃないよ!こいつは数回叩けば割と解決するんだよ。もって夏休みぐらいじゃない?」
それの真偽は不明だったが、君のうるさい笑い声を聞いてひとまず安心することにした。
「でも大会に出られるほど丈夫な体じゃないからさ、こうやって雑用をやってるんだ。皆からは『無理をするな』なんて言われるけど、病人扱いされるのが早死にしそうなくらい嫌でさ。」
おれは「そっか」と言い、立て付けの悪いドアを開けてあげる。
君は「あざすっ」と小さく首を下げると
「急に明日から顔を出せとは言わない。体育館を覗くだけでもいいからさ。どう?」
「うん、やってみる」
君はそれを聞くと嬉しそうに笑った。
「よし、じゃあまた明日な」
しばらく去っていく君の背中を見ていた。君は随分と痩せていた。体操着越しに骨が浮かび上がっている。足も細い。
君は病人だった。
おれは室内に戻り椅子に座る。そして少しの間だけドラム式の洗濯機とにらめっこをした後、「いてて」と姿勢を変え、机にうつぶせて眠りについた。
静けさの中で眠りにつく。遠くで小さくブザーの音が聞こえるが、もう少しうるさくてもいいと思った。
多分君の笑い声と心臓の音を聞きすぎたせいで騒音に慣れてしまったんだと思う。
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