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家に連れて帰ってバスタオルでふき、ドライヤーをあてると思ったよりそのしおしおの体は白くぶわっと毛が広がった。とくに尻尾が大きい。
「おい、犬、今日からてめぇは俺の家族だ」
「……キュウ」
「……名前がないと不便だな……そういや飼うならこの名前リストから決めようと思ってたのがある
アヤメ……でいいか?」
親からも友人からもこわいといわれた
もしペットを飼えたらという名前のノートは年季が入り汚れて、十冊目になっている
そのあいうえお順の一番最初の名前だ。
「キュ」
気に入ったような、そんな声を出す
アヤメは、しばらく家のあたりを落ち着かなさそうに探検していたが、結局部屋の隅が落ち着いたらしくそこに丸まってしまった
もうすこし床暖房がある部屋の真ん中にきてほしいんだが、抱っこさせて移動させてもすぐ隅の方にいってしまう
「……まぁ、いいか、腹へってんだろ餌やる
……フ、俺も大概頭がおかしいよな
数ヶ月に一度、飼ってるわけでもないのにドッグフードを注文するなんて
飼うシュミレーションをしつづけた……
ついに開封する時がきたってこった」
べりっ、とあけて皿に盛ると
アヤメは近寄り、嗅いだあとにポリポリとたべはじめた。
しかし、飼うとなると
犬の登録をしなくてはいけない。
まあそんなの手間でもなんでもないんだが……
30日以内でいいのか
「……じゃあ学校サボってまで手続きに行くほどじゃねぇな」
今週の土曜でいいだろう。
真っ白な体を擦り寄せてくる
その姿のなんと可愛いことか
「土曜は数ヶ月前から番長と空き地で決闘する約束をしてたけど
そんなことよりお前のほうが大事だからな……」
「キュッ」
しかし、俺は結局、その手続きにはいかなかった。
捨てたとか番長に怒られたからとかではない
翌日
俺はウキウキと帰宅してー……そこで出会ったのだ
その女に。
◆
「アヤメー、おい、アヤメ、今日は玩具を買ってき……」
あやめ色の長い髪、大きく白い尻尾と耳
巫女のような服を着たその女は
俺の姿を見た途端、あ、やべという顔をし
……犬の姿にもどった
「きゅ」
「……いや、きゅ、じゃねぇお前今人間だったろ!」
「……バレてしまっては仕方ないですね」
犬の姿から、またボン!と人の身体に戻る
「俺を……騙してたのか
犬だとおもったのに、やっとペットのいる生活ができると……」
「あの……犬じゃなくて狐です」
「なんだと……?!二重に俺を騙したってのか」
「それはあなたが勝手に犬と狐を見間違えただけじゃないですか」
そういや、騙したどころではないことが起きている
この女、一体何者なのか
「私は九尾の妖怪です
元の姿は2つあり、今とあの狐の状態です。
他は妖術でどんな姿にもなれます
けれど今は元いた里に帰れるほど力が残っていなくて……
人の住む里は怖いですね
なかなか食事にありつけず、昨日食べたドッグフードが久しぶりのちゃんとしたご飯でした」
「……そう、か」
そう聞くと思ったのと違うから捨てるってのも気の毒な気がしてしまう
どんな存在であれ、一度ひろったら責任はとるべきだよな
「じゃあ……もうすこし、ここにいるか?」
俺がそう聞くと、アヤメは嬉しそうにゆっくり笑った
「……はい」
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