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生まれ変わり
私は5人兄妹の中の下から2番目の娘だった。自分以外の兄妹は全員男の子で、だからなのかと家族からとびきり愛されて育てられ、私も皆の事を深く愛していた。
特にまだ小さい弟はよく懐いてくれたこともあって、私はお姉さんとして何があってもこの子の事を守らなくちゃと思っていた。
だから、だから、あの時、あんな行動を取ったのは私にとっては当然の事だった。
そう。それは高校から帰って来て、弟がお姉ちゃんとお出かけしたいと言うので、一緒に外で散歩をしていた時に起こった。
頭のおかしい男が大事な弟に、急に刃物を振りかざそうとしたのだ。それをすぐ隣で見た私は、咄嗟に二人の間に割って入った。
「きゃああ。」
「人殺し!人殺しよ!」
「取り押さえたぞ!誰か力を貸してくれ!」
どうやら犯人が取り押さえられたみたいでホッとした。
これでもう弟が痛い目に遭うことはないのだ。
私の血を浴びて硬直している弟と目があった。
(ああ、すごく酷い光景を見せちゃったな。せめて、なにか言わなきゃ。)
そう思って、私は最後の力を振り絞った。
「あんたは何も悪くないよ。こんな記憶は全部忘れてね。」
それだけ言うと意識は闇に溶けて行った。
ちゃんと弟に言いたいことを言えて良かったと思いながら。
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