29人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
友人のナツキから引っ越しの連絡が来た時、私は度肝を抜いた。
「え? 家を買った?」
ナツキとは大学時代からの付き合いだ。彼女の旦那であるリュウイチ君とも同級生である。
大学を卒業してもこうして交流も絶えないため、なんだかんだ言って十年来の付き合いだ。そんな長い付き合いだから彼女たちの性格も近況もある程度は理解しているし、行動パターンも把握している……つもりだったのだが、これは予想できなかった。
なんせリュウイチ君の転勤が決まってたったひと月の出来事だ。隣町に転勤と言えど、どうしても雪が降る前に引っ越したかったから急ピッチで新居を探したらしい。
「ということで、落ち着いたら遊びにおいでよ」
それを最後にナツキからしばらく連絡が来なくなった。転居の準備でてんてこ舞いだったのだろう。
ナツキの連絡を首を長くして待つこと二ヶ月。年も明けてようやく日常が戻った頃、ナツキは私を新居に招いてくれた。
「うわぁ……」
ナツキたちの新居にたどり着いた時、私は思わず感嘆の声をあげてしまった。
たどり着いたのは、ほんのり雪が乗っかったレンガ調の可愛らしい家だった。しかも庭付きで、ガレージや物置まである。なんて立派な家なのだろう。まだ表札はないが、教えてくれた枝番と合致するから間違いなくここがナツキたちの家だ。
立派な家なのは何も彼女たちだけではない。閑静な住宅街に建てられた家はどれもデザイン性が高く、似たような家は一軒もなかった。これは高級住宅街と言っても差し支えないだろう。
恐る恐るインターホンを鳴らすと、「はーい」とナツキの声が聞こえた。
「アイカでーす」
「はいよー。ちょっと待っててー」
そわそわしながら待っていると、麻のズボンにパーカーというラフな格好をしたナツキが出てきた。高級住宅街には似つかない格好だったが、それが逆に私を安堵させた。
「いらっしゃい。さ、入ってよ」
「うん、お邪魔しまーす」
心躍らせながらさっそく友人の新居に入る。
案内されたのはリビングだ。
最初のコメントを投稿しよう!