静かな家

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 リビングに入って最初に目に入ったのは大きなテレビとテレビ台だった。おそらく五十インチはあるだろう。しかも、テレビの目の前には木製のおしゃれなロッキングチェアまで置かれている。  あそこでゆらゆらと椅子に揺られながら、テレビを見てまったり過ごすなんて最高だろう。日向ぼっこをしながら読書を過ごすのも良さそうだ。この家で優雅に過ごす時間が、容易く目に浮かぶ。立派な家に立派な家具はとても絵になる。 「すごーい。これ全部買ったの?」 「ソファーとリビングテーブルは新調したけど、他は前の家の人がそのままくれたんだ」 「そうなの? 太っ腹」 「マジで助かったよ。カーテンなんて全部の家につけたら十万以上かかってただろうし、そのテレビだってきっと三十万くらいするでしょ」  そんな話をしながらナツキは台所に向かった。  お土産に持ってきたケーキを茶請けに、ナツキが紅茶を淹れてくれる。 「いやー、聞いてよ。マジで大変だったんだから」  紅茶を淹れながら、ナツキが半笑いで話かける。  なんせ彼女たちはひと月ちょっとで中古物件を買って、引っ越しまでしたのだ。物件購入は賃貸と違い、住宅ローンの審査から不動産会社との打ち合わせ、数々の契約書のサインから登記の登録までやることがいっぱいある。ナツキが在宅勤務でなければなし得なかったことだろう。  リュウイチ君だって、平日朝から晩まで働いて、休日は新居の手続きや引っ越し準備をしていたのだから、大変だったに違いない。 「ナツキもリュウイチ君もお疲れ様。でも、クリスマスに引っ越したんでしょ? サンタさんの贈り物だね」 「めっちゃ金払ってるけどね。でも、格安でこんな立派な家を買えたんだ。ありがたいよ」 「格安って、ぶっちゃけおいくら?」 「三千万」 「さんぜんまん!?」 「しかも築十年ちょっと」  こんな高級住宅地にあって、ガレージもあって、庭もあって、カーテンやテレビもついて、しかも築浅。信じられない。周りの家だってきっと五千万円はくだらないだろう。それがこんなに安い値段なんて── 「こ、ここで殺人事件があったとか、ないよね?」 「ないわ。勝手に人の家を殺人現場にするな」  ついでに言うと、欠陥住宅でもないらしい。ここまで安いと訳アリの一つや二つがあるかと思ったが、そんな心配もいらないようだ。 「ただ……まあ、実際住んでみないとわからんことってあるよね」
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