【怪談】拡散する音

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 これは女子高校生二人がクラスで虐められ,虐めた相手を怨み,見て見ぬ振りをした同級生たちを怨み,何もしなかった教師を怨み,そして助けを求めても話すら聞いてもらえなかった両親を怨んで死んでいった話である。  二人はもともとクラスでも目立たない存在だったが,ある特定のジャンルの音楽が好きという共通点がありそれが理由で親しくなった。いつも休み時間になるとお互いに好きな曲を共有したり,好きなメンバーの話をして盛り上がったが,周りはその様子を疎ましく見ていた。  二人のスマホの画面にはお互いの推しの画像が写り,カチカチという金属音とともに可愛らしい女の子のアニメが流れた。  いつから始まったのかは誰もわからなかったが,気が付けば二人をターゲットにした教師ですら驚くほどの陰湿な虐めがクラス全体で行われるのが日常になっていた。  中学から一緒だった同級生たちも虐めに加わり,誰も助けてくれない毎日に二人の精神は追い込まれていった。 「もう限界だよ」  ある日,そう言いながら二人は同級生たちの名前を読み上げ,教師を非難し,両親を呪うと,校舎の屋上から飛び降りる瞬間までをネットでライブ配信した。 「もう限界だよ。これ以上,生きていられない。一緒に死のう」  二人の自殺動画は瞬く間にネットで全世界へと拡散され,違う言語に置き換えられ,名前も顔も知らない者たちの間で面白おかしく加工されていった。  カチ……カチ,カチ,カチ,カチ……  二人の動画が拡散される度に残された二人のスマホが小さな金属音をたてた。  カチ……カチ,カチ,カチ,カチ……  しばらくして,動画の拡散とともに二人が死に際に読み上げた同級生や教師,そして両親のスマホもカチカチと静かに音を鳴らし始めた。  そして動画の拡散が収まり始めると同級生たちのスマホの画面に凶悪な表情になったアニメの女の子のキャラクターが映し出された。  カチ……カチ,カチ,カチ,カチ……  画面のなかの女の子は大きなカッターナイフを手に持ち,カチカチとメモリを合わせて刃の長さを調節していた。  自分のスマホに突然映し出された女の子に気づいたクラスメイトたちは,そのアニメを目にした順番に自らカッターナイフを手に持ち,首を突き刺しその場で命を絶っていった。  そして動画を観た教師と同級生の殆どが自ら命を絶った頃,二人の両親がスマホに映し出されるアニメの存在を知り,検証するため四人で集まって動画を観ることにした。 「聞いた話だと,あの子たちのことを考えながらスマホを起動させるらしいけど……」  親たちはスマホを再起動させ,それぞれのスマホを観ていると,突然カチカチと音を立てる女の子が画面に現れ,死んだ自分の娘に似たアニメのキャラクターが動き出した。  カチ……カチ,カチ,カチ,カチ…… 「え……? うそ……?」  その瞬間,画面に映る怒り狂った女の子がカチカチとカッターの刃を伸ばし,覗き込むようして画面に映り込む親たちの首に刃を当てた。そして,カッターの刃がそのまま首から顔にかけて画面上でズタズタに斬り裂いた。  現実でも突然首から顔にかけて大きく切り裂かれた四人が床に倒れて首から血を吹き出しながら悶え苦しんだ。  しばらくして全員が息を引き取ると,床に落ちた親たちのスマホの電源を切る女の子の指が一瞬画面に映り込んだ。  その日以降,二人の自殺動画は検索してもネットに見つからずそもそも拡散されていた事実もなかったかのように存在自体を忘れ去られ,カチカチと金属音を鳴らすアニメのキャラクターも消え去っていた。
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