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カウンターから外れていた老紳士が、私の隣の席を見て訪ねてきた。私はピニャコラーダを口にしながらほろ苦さを噛みしめ、微苦笑する。
「さあ、想い人のところじゃないかしら? ほら、今日はクリスマス・イブでしょう?」
「想い人? 彼の想い人は貴女だと伺っておりましたが」
「え?」
耳を疑う言葉に、私は困惑する。
「この店の予約をされる際に、そう話してくれましたよ。ここで大切な人との約束を果たす、と」
そういって老紳士は戸棚から藍色の箱を私の前に差し出した。それは手のひらほどのしっかりとした箱で、恐る恐る開けると、金色の指輪が収まっていた。
しかもその金の指輪には見覚えがある。
「まさか」
「ここで貴女に『ポートワイン』を出してくれとも言われたのです」
ポートワイン。ポルトガルのブランデーがブレンドされたワイン。これを男性から女性に薦めると「愛の告白」の意味となる。そして女性がそれを飲み干せば「愛を受け止める」という意味に代わるという。
いつだったか、彼がお酒を飲めるようになったら私にプロポーズをすると言っていた。
「じゃあ、私をここに呼んだ本当の理由は……」
「プロポーズをするつもりだったのでしょう」
「そ、じゃあ、なんであんな指輪なんて……!」
「貴女と同じ気持ちだったのではないですか?」
「……」
彼が座っていた席を眺めた後、私は入口へと視線を向けた。今から追いかければ──。だが、なんといえばいいのか。
「……それと、今追いかけなければ、あの方とはもう二度と会うことは難しいでしょう」
その言葉に私は慌てて立ち上がった。
「どういうこと!?」
「簡単です、彼は──」
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