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彼女は俺の足から手を離すと、荒い息を吐きながらその場に座り込んだ。
俺は痛みを引きずりながらも、彼女を抱きしめた。近いようで遠かった距離が一気にゼロになった。
「マヤ」
「……!」
ポカポカと胸を叩くが痛くない。泣きじゃくる彼女は、師匠という仮面の外れた──俺の愛しい人だった。
強く抱きしめると、彼女は肩を震わせて泣いた。彼女は強いけれど、涙もろくて、割と泣き虫だった。
「一人ぼっちにして、すまない」
「うっうっ……」
抱きしめた彼女の肩はとても細くて、力を込めたら壊してしまいそうだった。
「薬指の指輪を見た瞬間、本当の事が言えなかった。俺の我儘や身勝手を押し付けると思ったから。……でも、ずっと、ずっと会いたかった。もっと早く迎えに行くはずだったんだ」
「私は……貴方を……許さないわ」
「マヤ」
彼女は顔を上げると、俺についばむようなキスをする。
「こんな気持ちにさせた責任を取りなさい」
「……ああ」
今度は俺から、彼女に口づけをした。先ほどよりも長く、情熱的に。白い吐息が漏れた。
「俺が絶対に一緒に居る。永劫だろうと、どれだけの長さだろうと、アンタの傍に居る」
「馬鹿ね。……でも、死ぬほど嬉しい」
ああ、そうだ。彼女は意地っ張りでもあった。
自分の弱さを極力見せないように、仮面をつけるのも得意だった。彼女を抱きしめることで、一緒にいた頃の記憶がゆっくりと戻っていく。
彼女は再び泣いた。今度は幸せそうに。
アンタの運命を狂わせる歯車に、俺はなれただろうか。
なあ、マヤ。
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