第3話 彼目線

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 彼女は俺の足から手を離すと、荒い息を吐きながらその場に座り込んだ。  俺は痛みを引きずりながらも、彼女を抱きしめた。近いようで遠かった距離が一気にゼロになった。 「マヤ」 「……!」  ポカポカと胸を叩くが痛くない。泣きじゃくる彼女は、師匠という仮面の外れた──俺の愛しい人だった。  強く抱きしめると、彼女は肩を震わせて泣いた。彼女は強いけれど、涙もろくて、割と泣き虫だった。 「一人ぼっちにして、すまない」 「うっうっ……」  抱きしめた彼女の肩はとても細くて、力を込めたら壊してしまいそうだった。 「薬指の指輪を見た瞬間、本当の事が言えなかった。俺の我儘や身勝手を押し付けると思ったから。……でも、ずっと、ずっと会いたかった。もっと早く迎えに行くはずだったんだ」 「私は……貴方を……許さないわ」 「マヤ」  彼女は顔を上げると、俺についばむようなキスをする。 「こんな気持ちにさせた責任を取りなさい」 「……ああ」  今度は俺から、彼女に口づけをした。先ほどよりも長く、情熱的に。白い吐息が漏れた。 「俺が絶対に一緒に居る。永劫だろうと、どれだけの長さだろうと、アンタの傍に居る」 「馬鹿ね。……でも、死ぬほど嬉しい」  ああ、そうだ。彼女は意地っ張りでもあった。  自分の弱さを極力見せないように、仮面をつけるのも得意だった。彼女を抱きしめることで、一緒にいた頃の記憶がゆっくりと戻っていく。  彼女は再び泣いた。今度は幸せそうに。  アンタの運命を狂わせる歯車に、俺はなれただろうか。  なあ、マヤ。
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