第2話 彼女視点 後編

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 可愛げのない言葉を吐き出す。私に連れ合いなどいないし、この十年はすっかり色を失って、どこに行っても心から楽しいとは思えなかった。だというのに、それをもたらした元凶である彼の無神経な発言にイライラした。 「そうか。……今、幸せか?」 「ええ。貴方と一緒に居た時よりもずっとね」  半ばやけになって叫ぶように答えた。だが、彼は「そうか」と今にも泣きそうな顔で、微笑んだ。それはまるで私の幸せを切に願っていた──そんな姿に、不覚にもドキリとしてしまった。 「お待たせしました。オリンピックでございます」 「ありがとう」  紅茶色のオレンジの香りがするカクテル。彼は味わいように、そして一口で飲み干した。  「マヤ、今日アンタを呼んだのはアンタが幸せかどうか、知りたかったからだ。……色々事情があって、アンタの傍を黙って離れてすまなかった」  彼の目は僅かに潤んでいた。  私は頭を振った。怒りが消えた訳ではない。けれど踏ん切りがついたというようなものだ。きっと彼には彼の事情があるのだろう。  けれど彼に何があったのか触れたくはなかった。触れればまた思い出してしまうから、思い出は美化されて過去に囚われてしまう。塞いだ気持ちがまた溢れてしまうのは嫌だった。 (私は師匠なのだから、せめて別れ際ぐらいそれらしくしなきゃ……!)  私と彼の関係は修復できない。その事実が形となって目に見えてしまったのだから、未練がましく彼を想うのは終わりにしよう。 「貴方は──幸せだった?」  私の問いに彼は少し複雑そうに微笑んだ。 「全然。けれど大事な人の事を想えば……なんとかやっていけたよ」 「そう」 「今日は俺に会ってくれてありがとう。アンタが幸せなら──それでいい」  一方的に話をまとめると、彼は席を立って店を後にした。まるで嵐が通り過ぎたかのようだ。私は追いかけなかった。これ以上、恥を上塗りしたくない。  結局、彼は何がしたかったのか。私には最後まで分からなかった。 「おや、お連れの方は?」
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