第3話 彼目線

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 五センチほど積もった雪の上を当てもなく歩いた。死神だと名乗らなかったが、申請を出してしまった以上、条件を満たさなければ消滅する。  時計の針は二十三時五十五分。  日付が変われば、俺は──。  ***  気づけば、人通りにない公園で雪の上にしゃがみ込んでいた。  ここなら、観覧車からの時間がよく見える。  あと三分。  幸せを手に入れようとして、俺はいつも空振りばかり。もっとスマートなやり方があっただろう。後で後悔ばかりが蘇る。  詰めが甘い。本当に。 「(れん)!」  叫ぶ声に、俺は顔を上げた。  雪の上を裸足でかけてくる彼女に、俺は目を瞠った。片手には赤いヒールを手にしている。毛皮のコートを羽織っているが、ボタンを留めていないので、白い肌がちらちらと見えた。 「マヤ」  手を伸ばすが、その指先が透けて見えた。  もう時間はない。  ぼろぼろと泣いている彼女を見て、胸が軋んだ。 (アンタには幸せになって欲しいのに……)  俺は瞼を閉じた。  最後に彼女の姿が見れたのは嬉しかったが、出来るのなら笑っていて欲しかった──。 「言わなきゃ、わからないわよ!」 「な──げふっ!?」  まさか彼女が、電柱を蹴ってムーンサルトプレス(空中で円を描いて相手にボディ・プレスを駆ける技)を決めるとは夢にも思わなかった。というか、その後流れるようにアンクル・ホールド(かかとをひねり上げて、相手を這いつくばせる技)を決める。  この流れならスープレックス・ホールドでもいいのではないかと思ったが、そんな事を言っている場合ではない。ものすごく痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。何だこれ。 (あーそういえば、昔に護身術ってプロレス技を仕込まれたって──なんでだよ!? せめてバーティツ(武術)を教えておけって!)  というか足に胸とか色々当たっているのだけれど。しかも以前と変わらない香水が鼻腔をくすぐる。 「──って、ギブギブギブ!」 「煩いわね。なに勝手に終わらせて消えようとしているのよ。マスターから色々聞いたわ。貴方、死神なんでしょう。私を殺す気なら、最期までちゃんと付き合いなさいよ」 「え?」 「大事なことは言わなきゃ分からないわ。私も蓮も」  怒っている。けれどその声は優しい。 「もう! 貴方に会うのに、見栄を張った私も悪かったけれど。蓮も蓮だわ。私の指輪は男除けよ! 十年前に勝手に消えた人をずっと待っているために自分で買ったの!」 「なっ、……え!?」 「十年! 蓮がいなくて寂しくて、苦しくて忘れようとしても忘れられなかった。本当は貴方から会いたいと言われた時、死ぬほど嬉しかったのよ!」 「!」 「でも、怖かった! 十年よ。人は変わるわ! 他の男たちと同じように私が怖くなって逃げたんだとずっと思っていた」
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