顔の見えない共用スペース

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「お待たせしました」 「お、来た来た……ん?」  注文して数分。もうもうと湯気を立たせるラーメンが目の前の簾奥からやってきた。せっかく来た友人と話すこともままならず、携帯を取り出しネットサーフィンをして時間を潰すしかなかった。  やって来たラーメンの見た目は極めて普通。極々普通の醤油ラーメンといった感じの色であった。その割に香りが少ないような気がしたが、食べてみてから改めて考えてみることにする。  一口、スープを飲んでみる。 「んっ!?」  薄い。元々こう言う味なのだろうか。レンゲで掬い口に含んだスープの第一の感想は、味が薄い、と言うことだった。味と言っても醤油の味は確かにするが、他の味わいが極めて少ない、と言う感じ。  率直に言えばお湯に醤油が入っているだけ、と言われても差し支えない様な微妙な味だった。 「どうですか? 美味しいでしょう?」 「え、えぇ……」  簾の奥から聞こえてきた声に思わず返答してしまう。いや、これ本当においしいのか……。俺の味覚がおかしいだけなのか? 「みなさん美味しいって言って下さいましてね。作っている我々としてもうれしい限りなんです」 「は、はぁ……」  私語厳禁とは何だったのか。めちゃめちゃ喋る店員の言葉に、自分の味覚が間違っているのかと思わされる。  続いて麺を啜る。正直ゆで過ぎなのでは?と言うぐらいにはめんにこしがなかった。 「……これでレビューをねだるか……逆か。この味だから先にレビューを書かせるのか」 「うちは麺にもこだわっておりましてね、北海道産の――」  総括すれば正直微妙であった。元々スープに味が無いも同然なので当然だが、麺そのものにも味があるわけではなく、はっきり言えばラーメンとしては微妙、と言わざるを得ない評価だった。  そしてやたらと喋ってくる店の人。私語厳禁を張り紙に貼っておきながらやたらと喋りかけてくるとはこれいかに。 「これが口コミの怖さか」  とは言え頼んだものを残すのも何となく憚られ、大盛りにしなかった自分をほめながら、目の前にあるコショウ、ラー油などを適宜追加しつつ、店員の言葉を後半はスルーして、何とかラーメンを完食した。 ―――― 「ありがとうございました」  食後、店内で合流する事もままならず、食べ終わったら店を出て、店外で隼人達と合流した。 「あれ、旨かったか?」 「いや、あれならチェーン店のラーメンの方がましだったわ……」 「完全にあのレビュー軍団にしてやられたわ」 「そういやお前らレビュー入れたのかよ?」 「そりゃな。あれだけ値引きしてもらえるならって思ったが……はっきり言えばそれだけ値引きしても高いラーメンだったと思ってるわ」 「だよな」  食後、私語厳禁を守りつつ、店を出てから俺達は三人で店の批評をしていた。二人も俺と同じ評価だったようで、自身の舌が間違っていた訳ではない事に安堵した。  結論、二度と行くまい。  
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