3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「おはよう」
教室に入ってきた透明なもの。沈みかけていた僕は、その声で目を覚ます。
「おはよう。瓜生君」
「おはよう、叶さん」
彼女の、名前のような苗字を呼ぶ。一気に、水の底から引き上げられる。隣の席に座った彼女は、それきり何も言わないけれど、僕は、やっと息を吐き、胸いっぱいに酸素を吸う。
彼女からは、いつも、声しか聞こえなかった。水晶のように澄みきった水。その中に、ぽこんと、海の泡のように言葉が浮いてくる。
最初のコメントを投稿しよう!