静謐な彼女の頭の中の金の針

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「おはよう」  教室に入ってきた透明なもの。沈みかけていた僕は、その声で目を覚ます。 「おはよう。瓜生(うりう)君」 「おはよう、(かなえ)さん」  彼女の、名前のような苗字を呼ぶ。一気に、水の底から引き上げられる。隣の席に座った彼女は、それきり何も言わないけれど、僕は、やっと息を吐き、胸いっぱいに酸素を吸う。  彼女からは、いつも、声しか聞こえなかった。水晶のように澄みきった水。その中に、ぽこんと、海の泡のように言葉が浮いてくる。
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