静謐な彼女の頭の中の金の針

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 緩慢な動作で戸を開け入ってきた人物を見て、クラスメイトたちが忙しなく右往左往して自席に戻る。 「おう。おはよう」  ボリボリと頭を掻く担任の化学教師は、いつもなんとなく草臥れている。皆に新しい朝が来ているのに、一人だけ昨日の続きをしているみたいだ。  けれど、心が聞こえる僕は知っている。この人は案外満たされた、幸せな人なのだ。  ピシリ  再び机と仲良くしようとしていた顔を、ふと、上げる。珍しく、隣から「音」がした。  ピシリ、ピシリ、ピシリ  ひび割れるような、無機質な音。見れば、いつも涼し気な横顔が、色を失くして固まっている。その、食い入るように見詰める先は……
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