静謐な彼女の頭の中の金の針

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 あ、と気付いて雑音の海に飛び込む。泳いで、泳いで、時折転がる欠片の中から、目当てのものを探し出す。  あった。  見つけた声を拾い上げ、僕は、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。 「先生、結婚すんの?」  自分の顔の前に左手を掲げ、薬指の付け根を指差して言う。出欠を取る教師の声が止まり、教室中がワッと沸き立った。 「ひゃー、マジだぁ! センセ、指輪してんじゃん!」 「彼女いたんだ?!」 「ははは。一番は瓜生だったか。女子が気付くと思ったんだけどな」  一番は僕じゃない。  隣で涙も雑音も零さず泣いている、叶さんだ。  照れくさそうにはにかんで、幸福な報告をする教師の顔をじっと見詰めながら、彼女は軋むような悲痛な音を鳴らし始めた。  
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