再生

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 心配していた親には先立たれ、定職に就かず身も固めず残された遺産をほとんどギャンブルに費やし、借金取りに追われ、辿り着いた場所が駅のホーム。電車の激しいブレーキ音と冷たく硬い、線路の感触。それが最後の記憶。  最後の最後まで、どうしようもない人生だったな。夢も希望も無い、まさに生き方の悪い例って感じの、クソみたいな人生だ。  ああ……夢なら一時期持っていたか。  会社勤めが嫌になり、ミュージシャンを目指し一念発起。すぐに諦めないように退職金で高価なギターを購入し独学で練習し続けた。ある程度サマになってきたら、演奏の様子を撮影しネットに動画をあげた。  世の中、何が流行バズるか分からない。俺の演奏だって刺さる人には刺さるかもしれない。上手くいけば影響力絶大のインフルエンサーや名のある音楽プロデューサーの目に留まるのではないかと夢を見続けた。しかし、待てど暮らせど世間は俺に対し全くの無反応だった。  勇気を出し路上ライブにも挑戦してみた。比較的人通りの多い場所だったが、足を止めてくれる人はいなかった。ようやく耳を傾けてくれた人が現れても、鼻で笑われたり罵声を浴びせられる始末。物珍しかったのか、一人の子供がずっと見つめていたが、その母親が『見てはいけません』的な感じに子供を引っ張っていく屈辱も味わった。才能が無いと自認したのは40代になってから。それがきっかけで自分と世間に絶望し、以降は絵に描いたようなクズな人生を送った。  気まぐれで夢など持つべきではなかった。バズるどころか、ヒト一人の心も動かせなかった。早いうちに何の取り柄もないと自覚していたら平凡に、無難に生きることもできた。できることなら、もう一度……もう一度やり直したい。  ……嫌だ。このまま地獄に落ちるなんて嫌だ。今まで散々生き地獄を味わったんだ。もう……辛いのは沢山だ!  俺はどうにか体勢を変えようともがいた。しかし、無情にも足が僅かに動いただけだった。その拍子につま先が何かに触れた。 「……ぁ……っ……」  すると微かに、何か聞こえたような気がした。
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