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羽虫みたいに
新人のTは五十代の男性だった。デスクは私の隣。でっぷりと腰を下ろすなり、有名企業を早期退職したのだと得意げに言った。
Tの書いためちゃくちゃな報告書が棚に突っ込まれていた。おかしいな、ちゃんと書き方教えたのに。書き終わったら見せてくださいって言ったのに。
Tのデスクに報告書を置き、ひとつひとつ問題点を教えながら指先を置く。そんな私の手の甲が、ぶよついたかさかさの手の平に鋭く叩かれた。
音は響かなかった。私自身、声も出なかった。ふらふらと女子トイレに逃げ込み、震えが治まるまでうずくまっていた。
翌日。扉の向こうからこんなやりとりが聞こえた。
「Tさん、昨日は偉かったわねぇ」
「娘くらいの歳の女の子に叱られても、反論しないでじっと聞いてたもんねぇ」
「いやぁ、あんなので騒いだりしませんよ! 私、いい大人ですんで。でもありゃあ最低の女ですよ。悪いことたくさんやってるって話、知ってます?」
「えっ、全然聞いたことない。何、そうなの……?」
声も出なかった。
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