きっとまた苦い明日が来るけれど

1/1
前へ
/40ページ
次へ

きっとまた苦い明日が来るけれど

 母の作った夕食は鍋だった。一番好きな辛味噌ベースで、卵もウインナーも入っていた。それで私は、もう終わりにしようとすんなり決めることができた。  食後、母はお風呂に向かった。心の中で「さようなら」と声をかけた。  玄関へ。ドアを開けたところで着信があった。学校で唯一言葉を交わす友人の名前が表示されている。 「……どうかした?」 『え? いや、何してんのなぁと思って』  ぼんやりした答えがはっきりと返ってきた。私は思わず口を噤む。気にすることもなく話題を振り続ける友人。どこかビルの屋上にでも行くはずが、無意味に町を歩き回っている。  やがてその当人と、コンビニの前で鉢合わせた。小脇に抱えているのは、一口アイスのアソート箱。 「うわ、ちょうどよかった。一緒に食べてくれぇ!」 「……なんで?」 「えっ。無性にアーモンド味が食べたくなって。袋もらうのも忘れたしさ。食うしかない」  せいぜい駐車場の隅っこに座って、友人はぺりぺりと箱を開けた。二十四個入りを半分ずつ分けて食べた。  気づけば私は好きな映画の話をしていた。夢中で語り終えると、友人はすごい真顔で言った。 「めっちゃ観たい。でもサブスク入ってないんだよな」 「DVD貸すよ、あるから」 「マジか! 明日学校に持ってきてくれたり?」 「うん。絶対観てほしい」  スマホが鳴った。母からだ。「あんたどこ行ったの? 早く帰ってきてお風呂入っちゃいな!」  また明日ねと互いに手を振る。ゴミ箱のないコンビニだったため、友人は結局、アイスの空き箱(ゴミ入り)を抱えていた。その姿を思い出し、あんまりおかしくて笑った。涙が流れて、苦しいほどだった。  610b7b47-0877-4411-84e0-5efaae4f2c64
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加