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きっとまた苦い明日が来るけれど
母の作った夕食は鍋だった。一番好きな辛味噌ベースで、卵もウインナーも入っていた。それで私は、もう終わりにしようとすんなり決めることができた。
食後、母はお風呂に向かった。心の中で「さようなら」と声をかけた。
玄関へ。ドアを開けたところで着信があった。学校で唯一言葉を交わす友人の名前が表示されている。
「……どうかした?」
『え? いや、何してんのなぁと思って』
ぼんやりした答えがはっきりと返ってきた。私は思わず口を噤む。気にすることもなく話題を振り続ける友人。どこかビルの屋上にでも行くはずが、無意味に町を歩き回っている。
やがてその当人と、コンビニの前で鉢合わせた。小脇に抱えているのは、一口アイスのアソート箱。
「うわ、ちょうどよかった。一緒に食べてくれぇ!」
「……なんで?」
「えっ。無性にアーモンド味が食べたくなって。袋もらうのも忘れたしさ。食うしかない」
せいぜい駐車場の隅っこに座って、友人はぺりぺりと箱を開けた。二十四個入りを半分ずつ分けて食べた。
気づけば私は好きな映画の話をしていた。夢中で語り終えると、友人はすごい真顔で言った。
「めっちゃ観たい。でもサブスク入ってないんだよな」
「DVD貸すよ、あるから」
「マジか! 明日学校に持ってきてくれたり?」
「うん。絶対観てほしい」
スマホが鳴った。母からだ。「あんたどこ行ったの? 早く帰ってきてお風呂入っちゃいな!」
また明日ねと互いに手を振る。ゴミ箱のないコンビニだったため、友人は結局、アイスの空き箱(ゴミ入り)を抱えていた。その姿を思い出し、あんまりおかしくて笑った。涙が流れて、苦しいほどだった。
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