ただひとりに、ただひとことを

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ただひとりに、ただひとことを

「見た目で好きになったわけじゃないからね」  将来を誓い合った彼は、私を抱き寄せてそう言った。とても優しい一言だった。でも、私の胸に鋭く突き刺さる一言でもあった。中身を愛してくれるのは勿論嬉しい。でも。……  それから私は一心に外見を磨き続けた。運動と食事制限で大幅に減量した。頭から爪先まで毎日保湿とマッサージをした。パーソナルカラー診断に行き、自分に似合う色やファッション、メイクを学び取り入れた。アドバイスに従い髪型も変えた。結果、自分でも人生で最良だと思えるビジュアルに到達することができた。  これから彼と一緒になったら、きっとすっぴんを見られることも増える。おならやイビキを聞かれもする。もし子供を授かれば体型も崩れてしまう。何より、避けようもなくどんどん年齢を重ねていく。  今だ。私のピークは今。この世でたったひとり、あなたからの「♡」がほしい。「可愛いね」って、ただ一言でいいから言われてみたい。幸せなその記憶がほしい。おばさんになって、おばあさんになったとしても、きっとそれをよすがに生きていけるのではないかと思うから。  ねえ、私、可愛くなったかな?  久しぶりの待ち合わせ。期待と不安に満ちた私。彼はしげしげと眺めてからこう言った。 「君って、鼻筋は通ってるよね」  褒めてくれたのは。別に何を変えたわけでもない、プチプラのハイライトをちょこんと乗せただけの箇所だった。途端、つんと痛いほど熱くなって、深く俯いた。巻いた髪の先が鼻の穴に刺さり擽ってくる。全ての努力と思いを揶揄するように。可愛くなんかなれないんだよ、と嗤うように。 bb746bc1-bd74-4afb-b45b-20f28207f98e
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