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病
夜勤を終えた姉が帰宅すると、妹は血相を変えて物を投げつけてきた。
「私は働けもしないほど弱っているのに!」
薬を飲み過ぎてどっぷり眠っている時もあるが、今日は夜通し起きて考え事をしていたようだ。
姉はひとり淡々と寝支度を整える。後頭部にコンパクトミラーが当たる。怪我こそ特になかったが、鏡面は割れたので、破片を拾い集めて捨てた。
「今日は通院でしょ。どうせ暴れるなら医者の前でやってきなよ。そうすりゃ即入院にしてもらえるんだから」
「ぎぃぃぃぃッッッッ」
「……昔は、すごくいい姉だったんです。心理カウンセラーの資格まで取ってくれたし」
数時間後。診察室で、すっかり落ち着いた様子の妹が医者に訴えている。
「でも……最近は明らかに変なんです。私を重病人扱いするくせ、ちっともサポートしません。どうしてああいう言動になるのか、私には全然理解できなくて、本当に気持ち悪いです。私より姉の方がよっぽど病気で、おかしい人なのではないでしょうか? あんな狂人と一緒に暮らすのは怖いです。私はこんなに普通なのに……」
「普通なのね」
「えっ?」
「あなたは安定しているのね。最近」
「えっ、あ、はい……」
「それなら、前回と同じ薬を出すから、同じように飲んでください。お大事に」
医者は忙しなくカルテを記入し、ちらりと時計に目をやった。患者はまだまだいる。ひとりに五分もかけてはいられない。
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