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そんな睨み合いが続く中
また 堪え性のない 人間は
耐え切れなくなって 声を出した
「ねえ オオカミさん
あなたのことよ
立派な銀色の毛皮を纏った
森の匂いがする あなたのこと
ねえ もしかして
この 毛皮が ボロボロになった
茶色オオカミが 気になってる?
ま まさか
この茶色オオカミ って
あなたの お兄さん?
それとも お友だち?
もしかすると あなた
仇討ち に 来たの?
私じゃない
私が やったんじゃない!
私は
この茶色オオカミに 騙されて
森で 花を摘んでいただけ
その間に
茶色オオカミは おばあちゃんを
一飲みにしてしまった
だから
私は むしろ 被害者なの
あなたも 被害者かも知れないけど
私だって ツラいのよ
あ その・・・
おばあちゃんを 助けるために
茶色オオカミの腹を
掻っ捌いたことは
謝るわ
ごめんなさい
ちょっと 残酷だった
い・・・ いえ やっぱ
かなり 残酷だった
だけど 仕方なかったのよ
おばあちゃんを助けたい 一心だった
この茶色オオカミの
毛皮が欲しいなら
せめて 形見に
森へ 持って帰ってもいいわ
もう ボロボロになっちゃったけど
あなたの大切な仲間なら
どうぞ 持って 帰って
その代わり お願い
敵討ち は やめて!
私を 食べないで・・・ 」
何だと?
この茶色オオカミが 人間ひとり丸ごと
一飲みにした とは!
やはり
ただものではない と 思ったが
奴は 何か恐るべき妖術を
心得ているに違いない
それより 驚いたのは
この人間の 残虐性だ
いくら 一飲みにされた人間を
助けるためとはいえ
この茶色オオカミの腹を
掻っ捌いたとは!
まてよ?
と いうことは
この茶色オオカミ とやらは
もう 殺されているというのか?!
それにしては 何という
生き生きとした 眼差し!
恐らく 残酷 極まりない
人間の 惨たらしい仕打ちに
・・・ 死んでも死にきれず
奴の霊魂は
己の毛皮に 憑りついて
恨みを晴らそうとしているに
違いない
しかし
・・・と すると
一体全体
この人間の 目的は何だ?
血塗られた真っ赤な頭巾を被った
この人間の 目的は 何なのだ?
俺の背中に 悪寒が走った
まさか・・・
自分の 大切な ばあさんを
オオカミに 一飲みにされた
恨みを 晴らすことが 目的?
『仇討ちは やめて』という
思わず 口から出た言葉に
真実が 隠されているのではないか?
大勢の人間を集めて
そのための作戦会議を開いていた?
森に棲む オオカミを捕らえ
腹を掻っ捌こうというのか?!
その計画が あまりに残酷で
血生臭い狂気の沙汰だと知った
人間どもは 思わず
ぎゃーーーーっ!
きゃあああぁぁ!
ひえぇ~~~っ!
と 悲鳴を上げ 呻き 叫んだ
それでも 計画の全容を聞いて
人間たちは 勝利を確信したので
ニコニコと 微笑みさえ浮かべて
来るべき 襲撃の時に備え
一度 家に戻ったのだとしたら?
大変だ!
こうしてはいられない
一刻も早く 森へ帰り
仲間たちに 知らせなければ!
ぼやぼやしてると
俺たちオオカミは 皆殺しにされる
腹を掻っ捌かれ
ハラワタをほじり出されて
あの茶色オオカミのように
ペラペラの毛皮にされちまう
そう悟った 俺は
放たれた矢のごとく
血塗られたテントを抜け出し
一目散に 森に向かって走った
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