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ノイズだらけの静寂
心の手でふさいだものは、私の目。
見ないように、見えないようにすれば、強くいられるから。
強いふりをしていられるから。
ちょっと押されただけで転んでしまいそうな私ができることは、心の静寂を保つこと。
妬みやひがみ、嫌味はどこから湧いてくるのだろうか。私自身が気づかぬうちに引き寄せているのだろうか。
負けないよう、食いしばった口はマスクで隠す。
耳はふさぎきれないほどに、同僚女性の長谷川さんが耳障りな音を運んでくる。
だから目だけはと、他人の視線を気にしないよう心の手で目をふさいだ。
でも心の静寂は、耳障りな音に阻まれ保てないでいる。
静かな中で眠りたい、静かに働きたい。
ふさいだ目は、良し悪しさえ見えなくさせていた。
認めてもらいたくて頑張って……会社から認められたら妬みを浴びて……無視していたら孤立して……。
転びそうな足を引きずり、ノイズだらけの静寂を求めて夜道を帰ってゆく。
この公園を抜けて角を曲がればアパートだ。
ふと辺りを見回すと、街灯とは違う月夜がとても明るく美しい。
──満月……かな。
久しぶりに見上げた夜空は美しかった。
なのにぼやける……なんで?
私の乱視に溢れる涙が上乗せされたから、満月がにじんでしまったのだ。
──そうか、私は泣きたかったんだ。
夜の公園で私は一人泣いた。
声をあげて泣いた。
ついでに飛び出す罵声が、静かな公園を私の声で覆い尽くしても泣き続けた。
「ふざけんなーーーー!!」
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