3. 娘の恋人

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「実はね……」  ダイニングテーブルに向き合うと、娘が切り出した。 「彼とは大学で知り合ったのね。フランスからの留学生なの」 「ああ、母さんから聞いてるよ」  僕が答える。 「それでね……これはお母さんにも言えなかったんだけど、実は彼、『長靴を履いた猫』の猫の血筋なの」 「ええっーー!」  僕達夫婦は思わず声を上げた。人間でも妖怪でもなく、猫とは……。 「もちろん、今はちゃんと人間なの。遺伝子を調べたら、もう人間に同化していて……」  どこかで聞いた話だな……。隣で妻が居心地悪そうにもぞもぞしている。 「それで、何か困ることがあるのか? ないんだろう?」  桃太郎でも鬼でも一寸法師でもないんだから、ノープロブレムじゃないか。 「それがね……」と娘は少し困ったように話す。 「昔の習性が残ってて、少し大ボラ吹きなところがあるの。本人はジョークのつもりなんだけどね」  確かあの猫は大ボラ吹いて、主人を出世させたのではなかったか……。まあ、僕達はフランス語がわからないし、問題なかった。 「あと、雨でもないのに長靴履くとこかな……」   そんなことか……。桃太郎と鬼の夫婦に比べればどうってことはない。 「お前が幸せならそれでいいよ」  私が言い、妻が肯くと、娘は私達に抱きついてきた。 「本当に? こんな告白したら、反対されると思ってたの! ありがとう、お父さん、お母さん」  僕としたことが不覚だった……。考えてみたら、昔話やお伽話は日本だけのものじゃない。こりゃ世界中どこへ行っても逃げられないわけだ……。 <了>
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