1. 桃太郎

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1. 桃太郎

「すまない。実は今まで黙っていたことがあるんだ」  僕は夕飯が済んだテーブルで、妻にそう声をかけた。来月には結婚二周年を迎えるというある夜のことだった。 「なあに?」  妻は食器を下げるために立ちあがろうとしていたが、もう一度椅子に腰を落ち着けた。 「結婚する前にちゃんと伝えればよかったと思う。でも、僕にとっても、あまりにも非現実過ぎたし、それが僕らの生活に何か影響を及ぼすとは思ってなかったから……」 「わかったから、早く言って」  しどろもどろの僕の言い訳に、せっかちでサバサバした性格の妻はイラッとしたようだ。 「実は、僕の家系には桃太郎の血が流れている」  これまで言えなかった事実を初めて告白した。 「は?」  妻は拍子抜けしたような、素っ頓狂な声を上げる。 「桃太郎?」 「ああ」と僕は真面目にうなずく。 「桃から生まれた?」 「ああ、そうだ」  僕は詳しく説明する。  僕の祖父母は岡山県の出で、岡山にはうちの一族をまとめる本家があり、その昔、鬼ヶ島で鬼退治をした桃太郎の血筋だと言われていた。  しかし、我が家は祖父母の代で東京に移り住み、父の代からは東京生まれの東京育ちで、分家といっても末席の末席に名を連ねているだけだ。  現実の生活に影響はないと言われていたものだから、結婚の際わざわざ告げなかった。
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