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ところがこの度、本家に男子がいないので分家から養子を取り何十何代目かの桃太郎を襲名させたいという書状が、本家から分家筋に一斉に送られた。
祖父から、まあうちが選ばれることはなかろうが一応知らせておくと、電話があったのだ。
「なんとなく、わかってたよ……」
妻がぼそっと言う。
「えっ!」
妻の驚きの告白に、僕は声を上げた。
「だって、あなたの実家、ペットに犬と猿と雉を飼ってるでしょ?」
桃太郎の一族としての矜持だと、祖父が飼っていた。
「それに……」と妻は続ける。
「お義母さん、桃を切るとき、ナイフや包丁あんまり使わないよね。柔らかくなるまで待って、皮に切れ目だけ入れて、あとは手でひねって割ってる……」
「それ、気がついてたんだ……?」
僕は妻の観察眼に脱帽する。
「うん」
そう、これは一族の掟だった。
万が一、中に新たな桃太郎が入っていたら傷つけてしまうことになるから、刃物は最低限の使用に留めるという不文律があったのだ。
「そうか、気づかれていたんだね」
僕は呟く。
「確信は持てなかったけどね。で、あなたが桃太郎を継ぐ可能性ってどれ位なの?」
「祖父が言うには、もしうちが指名されたら一番若い僕が岡山へ行くことになるけれど、でも有力な分家筋は岡山にたくさんあるから大丈夫じゃないかって」
「じゃあ、そんな心配しなくていいのね?」
「ああ」
「わかった。話してくれてありがとう」
その後しばらくして、新たな桃太郎が岡山の分家から選ばれたと祖父から連絡があった。僕はほっとして妻に伝え、この話は終わった……はずだった。
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