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「昂輝はね、本当に女々しかったんだよ。出会った最初の時から告白してきたときまで、ずっと」
沙月がさらりと言った内容に、覚えてもいないというのに気恥ずかしくなってしまい、昂輝はうつむいた。
「そ、そうだったんですか・・・・・・本当にダメダメだな、僕」
「ふふ、そうやってすぐに顔赤くして、下むいちゃうところも変わってないよ」
追い打ちをかけるような言葉に、昂輝はますます頬が赤くなっていくのを感じる。
「初めて会ったのは、大学の門の近くでね。ちょっとすれ違っただけだったんだけど。3ヶ月後に告白されたとき、『初めて正門で見かけたときからずっと好きでした』って言われて、ああそんな昔からか、って思っちゃった」
「ええ・・・・・・」
「『ふとすれ違ったときに鼻をかすめたシャンプーの匂いから、白くしなやかなその手先まで、全部を愛してます』とか大声で言われてね。あれは引いちゃった」
「ええ・・・・・・」
「『付き合ってくださいお願いします、もし駄目なら土下座でもなんでもしますから』──今でも言えるよ、昂輝の告白のセリフ。インパクトありすぎてね」
「ええ・・・・・・」
もはや、他に言うべき言葉というか相槌が見つからない。
まったく、自分はなんと女々しい──というか、いろんな意味で男らしさのないやつだったんだろうか。
後悔の念が、昂輝の胸の中にむくむくと湧き上がってきていた。
***
いかにも後悔と恥ずかしさ、罪悪感に押しつぶされているような昂輝の姿を見ながら、沙月は残ったコーヒーをすする。
──まあ、嘘なんだけどね。
空っぽになった白いカップを、テーブルに戻して。
架空の出会いを、彼女は語り続ける。
「それに、初デートのときも本当にひどかったんだよ。せっかく映画館に行ったのにね、昂輝ったら──」
これも全部、彼を殺すため。
昂輝のその首に、包丁の刃を滑らせるため。
そう自分に言い聞かせながら、沙月は、嘘を付き続ける。
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