三章:カフェにて

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「昂輝はね、本当に女々しかったんだよ。出会った最初の時から告白してきたときまで、ずっと」  沙月がさらりと言った内容に、覚えてもいないというのに気恥ずかしくなってしまい、昂輝はうつむいた。 「そ、そうだったんですか・・・・・・本当にダメダメだな、僕」 「ふふ、そうやってすぐに顔赤くして、下むいちゃうところも変わってないよ」  追い打ちをかけるような言葉に、昂輝はますます頬が赤くなっていくのを感じる。 「初めて会ったのは、大学の門の近くでね。ちょっとすれ違っただけだったんだけど。3ヶ月後に告白されたとき、『初めて正門で見かけたときからずっと好きでした』って言われて、ああそんな昔からか、って思っちゃった」 「ええ・・・・・・」 「『ふとすれ違ったときに鼻をかすめたシャンプーの匂いから、白くしなやかなその手先まで、全部を愛してます』とか大声で言われてね。あれは引いちゃった」 「ええ・・・・・・」 「『付き合ってくださいお願いします、もし駄目なら土下座でもなんでもしますから』──今でも言えるよ、昂輝の告白のセリフ。インパクトありすぎてね」 「ええ・・・・・・」  もはや、他に言うべき言葉というか相槌が見つからない。  まったく、自分はなんと女々しい──というか、いろんな意味で男らしさのないやつだったんだろうか。  後悔の念が、昂輝の胸の中にむくむくと湧き上がってきていた。    ***  いかにも後悔と恥ずかしさ、罪悪感に押しつぶされているような昂輝の姿を見ながら、沙月は残ったコーヒーをすする。  ──まあ、。  空っぽになった白いカップを、テーブルに戻して。  架空の出会いを、彼女は語り続ける。 「それに、初デートのときも本当にひどかったんだよ。せっかく映画館に行ったのにね、昂輝ったら──」  これも全部、彼を殺すため。  昂輝のその首に、包丁の刃を滑らせるため。  そう自分に言い聞かせながら、沙月は、嘘を付き続ける。
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