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お家デート・・・・・・お家デートかあ。
年甲斐もなく浮かれている自分がいるのを自覚しながら、昂輝は心中でタップダンスを踊っていた。
沙月さんの家は、どんな家なのだろう。
恐らく、彼女らしく清楚で穏やかで、温かみがある家に違いない。
入り口には、きっと自分には名前もわからないような小洒落たインテリアが飾られていて、その奥には秘密の小部屋めいた各部屋が、ひっそりとあるんだろう。
まるで妖精の国に訪れたかのように、いい匂いがするんだろうか。
妄想とも言える想像を巡らせつつ、昂輝は手にしたコーヒーをすすった。
彼女の両親は既に他界していて、年の離れた姉も、別居しているという。つまり、家には誰もいないのだ。
──いやいや、別に何も考えてない。決して、沙月さんに破廉恥なことをしようとしているわけでは・・・・・・
心の中で頭をもたげたさらなる妄想を否定するように、昂輝はぶんぶんと首を振った。
***
急に緊張してきた。
沙月は、かすかに目を伏せながらそう思った。
ここのところ、嘘ばかりつき続けている。本当のことを言った記憶なんて、しばらくない。
けれども、もう迷わないと決めている。立ち止まらない。これも全部、自分の欲求を満足させるためなんだから。
カバンの表面をそっと撫で、沙月は目を閉じる。
奥底には、かつて渡された名刺が入っていた。
『綿元井 伊知 永原探偵事務所 』
そう書かれた、白く小さな名刺が。
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