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カフェを出ると、既に日が暮れ、街は薄暗い闇に包まれていた。相変わらず、寒々しい風が吹き付ける。
「手、つなぎませんか」
沙月の家へ歩く途中。
震える声で、昂輝は片手を差し出した。
隣で歩く沙月が、驚いたように目を見開いている。
「・・・・・・その、少しくらいは僕も、好きな人に積極的になりたいと言うか」
自分でも何を言っているのか、わからない。顔が赤いのを自覚している。きっと今の自分は、とんでもなくダサいのだろう。
「んー、やだ」
「そ、そうですか」
いたずらっ子のような可愛い口調で、沙月は断った。ショックを覚えつつ、手を引っ込める。
「だって昂輝、今無理してるじゃない。見ればわかるよ」
その言葉に、昂輝はどきりとした。
こちらの胸の奥まで見透かすような、鋭い視線。ふたつの瞳が、まっすぐに自分を見つめている。
「焦らなくてもいいよ。私は、昂輝が私のこと思い出してくれるまで待ってるから。昂輝は無理しなくて良いんだよ」
「沙月さん・・・・・・」
優しく包み込むような言葉に、思わず泣き出しそうになる自分がいた。
だめだ、こんなに弱っちくてどうする。
記憶を失う前の自分だって、結構女々しかったのだ。
今こそ、自分が変わるチャンスだっていうのに。
ぶんぶんと首を振りながら、昂輝は沙月を横目に見た。
ますます、心臓の鼓動は早まっている。
***
──恋人じゃなくて、「好きな人」か。
沙月は、横を歩く昂輝にちらと目をやった。
やはり、彼は勘違いをしている。そして、その思い込みによる幻想に隠れた私の真意には、いっさい気づいていない。
もうすぐ決戦だ。沙月は拳を強く握ると、前方をきっと見据えた。
待っててね。昂輝。
必ずや殺してあげる、君のことを。
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