三章:カフェにて

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 カフェを出ると、既に日が暮れ、街は薄暗い闇に包まれていた。相変わらず、寒々しい風が吹き付ける。 「手、つなぎませんか」  沙月の家へ歩く途中。  震える声で、昂輝は片手を差し出した。  隣で歩く沙月が、驚いたように目を見開いている。 「・・・・・・その、少しくらいは僕も、好きな人に積極的になりたいと言うか」  自分でも何を言っているのか、わからない。顔が赤いのを自覚している。きっと今の自分は、とんでもなくダサいのだろう。 「んー、やだ」 「そ、そうですか」  いたずらっ子のような可愛い口調で、沙月は断った。ショックを覚えつつ、手を引っ込める。    「だって昂輝、今無理してるじゃない。見ればわかるよ」  その言葉に、昂輝はどきりとした。  こちらの胸の奥まで見透かすような、鋭い視線。ふたつの瞳が、まっすぐに自分を見つめている。 「焦らなくてもいいよ。私は、昂輝が私のこと思い出してくれるまで待ってるから。昂輝は無理しなくて良いんだよ」 「沙月さん・・・・・・」  優しく包み込むような言葉に、思わず泣き出しそうになる自分がいた。  だめだ、こんなに弱っちくてどうする。  記憶を失う前の自分だって、結構女々しかったのだ。  今こそ、自分が変わるチャンスだっていうのに。  ぶんぶんと首を振りながら、昂輝は沙月を横目に見た。  ますます、心臓の鼓動は早まっている。    ***  ──恋人じゃなくて、「好きな人」か。  沙月は、横を歩く昂輝にちらと目をやった。  やはり、彼は勘違いをしている。そして、その思い込みによる幻想に隠れた私の真意には、いっさい気づいていない。  もうすぐ決戦だ。沙月は拳を強く握ると、前方をきっと見据えた。  待っててね。昂輝。  必ずや殺してあげる、君のことを。
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