六章:事件の終焉

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 沙月の姉である茜は、昔から体が弱く、病気にかかりやすかった。  彼女が日頃から居間で寝ていたのは、万が一の事態に家族が対応するためだ。  突然の侵入者に声を上げることもなく、抵抗一つせずに殺されたのも、病に冒されて痩せ細った体では大の男に抗うことができなかったからであった。  そんな茜を、それでも母と沙月は、大事にしていた。  虚弱体質な彼女を家族の一員として大切に扱い、共に支え合って暮らしていた。  それが、当たり前だった。2人にとっては。  しかし、父親の司にしてみれば、そうでもなかったのだ。  ものも言えぬほど弱りきり、無駄に金と労ばかり費やさねばならない出来損ない。妻も娘も、そちらにばかりかまけてろくに自分を見ようともしない。    そんな彼女らを、次第に司は疎むようになっていった。  だから、隣に住んでいた青年を利用したのだ。  下の娘と年の近い昂輝は、どこか危うさを秘めた青年だった。  それに気づいていた司は、彼を沙月と積極的に関わらせ──といっても、道ですれ違ったりちょっとした会話をするくらいだったが──そして、沙月を通して茜が標的になるように仕組んだ。  結果的に、茜は。  沙月は復讐に捕らわれて家を出ていき、妻も間もなく事故で死んだ。  娘を喪った辛さに打ちひしがれ、生気も理性も失っていたそうだ。前方不注意だった彼女は、普通に運転をしていただけのトラックに撥ねられた。  その後、晴れて司は自由になり、ずっとと同棲を始めたが──結果的に、無職の飲んだくれはいらないと捨てられた。  その末路が、このゴミ屋敷である。 「・・・・・・既にこちらでは、警察の手も借りたおかげで捜査は全て終わっています。あなたにも相応の罪がある」  大人しく引き渡されていってほしいものです。  そう呟くと、伊知は立ち上がった。床のゴミを避けながら、器用に玄関まで歩いていく。玄関のドアを開けると、刑事が数人待機していた。  
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