6人が本棚に入れています
本棚に追加
「だーれだ?」
昂輝の目を両手で隠し、沙月は後ろから声をかけた。肩がびくついたのがわかる。
「さ、沙月さん」
手を話すと同時に、昂輝はぱっとこちらを振り向いた。 その顔には、驚きの表情が浮かんでいる。それもすぐに、しかめっ面に変わった。
「驚きましたよ・・・・・・」
少し眉をひそめる昂輝に、沙月は小さく笑った。
「だって、ずいぶん長い間読んでるんだもの。ちょっと気を引きたくなっちゃった」
「急にボディタッチしてこられると困ります。僕にとっては、会ってから一ヶ月しか経ってない女性なんですから」
「えー、つれないな」
昂輝が、距離の詰め方に戸惑っているのがわかる。当然だろう。
まさに彼の言う通り、昂輝にとって自分は、「会ってから一ヶ月しか経っていない女性」でしかないのだから。
「そろそろ、店出よっか。結構時間も過ぎちゃったし」
そう促せば、彼はそうですね、と言って本を棚にしまい、沙月について歩き出した。
店の外に出ると、沙月はバッグから魔法瓶を一本取り出し、昂輝に手渡した。
昂輝は、目をぱちくりさせている。
「はい、これ。今日寒いって天気予報で言ってたから、あったかいお茶入れてきましたー」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
申し訳無さそうな顔をする昂輝の背中を、沙月はばんばんと叩く。
「いいわよ、遠慮なんかしなくたって。ほらほら、はやく飲んで。昂輝がずっと立ち読みしてるもんだから、時間が押してるのよ」
「は、はい。すみません」
慌てて謝る昂輝の姿に、心中で黒い感情が膨れ上がっていくのを感じる。
──ああ、はやく殺したい。
君の心臓に、冷たいくらいに鋭い刃を突き立てたい。
そんな内なる衝動が、胸の中で暴れまわっている。
大丈夫、決戦は今夜だ。
自分にそう言い聞かせ、沙月はふふ、と笑った。
最初のコメントを投稿しよう!