一章:待ち合わせ

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「だーれだ?」  昂輝の目を両手で隠し、沙月は後ろから声をかけた。肩がびくついたのがわかる。 「さ、沙月さん」  手を話すと同時に、昂輝はぱっとこちらを振り向いた。 その顔には、驚きの表情が浮かんでいる。それもすぐに、しかめっ面に変わった。 「驚きましたよ・・・・・・」  少し眉をひそめる昂輝に、沙月は小さく笑った。 「だって、ずいぶん長い間読んでるんだもの。ちょっと気を引きたくなっちゃった」 「急にボディタッチしてこられると困ります。僕にとっては、会ってから一ヶ月しか経ってない女性なんですから」 「えー、つれないな」  昂輝が、距離の詰め方に戸惑っているのがわかる。当然だろう。  まさに彼の言う通り、昂輝にとって自分は、「会ってから一ヶ月しか経っていない女性」でしかないのだから。 「そろそろ、店出よっか。結構時間も過ぎちゃったし」  そう促せば、彼はそうですね、と言って本を棚にしまい、沙月について歩き出した。  店の外に出ると、沙月はバッグから魔法瓶を一本取り出し、昂輝に手渡した。  昂輝は、目をぱちくりさせている。 「はい、これ。今日寒いって天気予報で言ってたから、あったかいお茶入れてきましたー」 「あ、ありがとうございます・・・・・・」  申し訳無さそうな顔をする昂輝の背中を、沙月はばんばんと叩く。 「いいわよ、遠慮なんかしなくたって。ほらほら、はやく飲んで。昂輝がずっと立ち読みしてるもんだから、時間が押してるのよ」 「は、はい。すみません」   慌てて謝る昂輝の姿に、心中で黒い感情が膨れ上がっていくのを感じる。   ──ああ、はやく殺したい。  君の心臓に、冷たいくらいに鋭い刃を突き立てたい。  そんな内なる衝動が、胸の中で暴れまわっている。  大丈夫、決戦は今夜だ。  自分にそう言い聞かせ、沙月はふふ、と笑った。     
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