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病院のベッドで目を覚ましたとき、目の前にいたのは母親だった。
ずっと一人暮らしをしていたから、しばらく会っていなかったが、いつの間にかすっかりシワが増えていた。
「昂輝、よかった・・・・・・目が覚めたのね」
二十歳にもなって、恥ずかしい。抱きつこうとする母を押し止め、昂輝は重い体を起こした。
部屋の隅にいた看護士が、安堵したような笑みを浮かべた。
「よかったです。体に痛むところなどはありませんか」
「はい」
いくつか、事務的な質疑応答を続けていたときだった。
突如として、病室の扉が叩きつけるようにして開いた。
「昂輝!」
そこには、年若い女性がいた。
肩まで伸ばした黒髪は乱れ、顔は青白い。デニムのワンピースと乱雑に羽織ったコートは泥だらけで、爪には土がこびりついていた。
開いた扉にすがりつくようにしてうつむき、息を切らしている。
「・・・・・・どなたですか」
いきなり入ってきた見知らぬ女性を妙に思い、昂輝は尋ねた。
途端に彼女は顔を上げ、鬼のような形相で怒鳴った。
「はあ⁉ どなたですかって、どういうことよ! 忘れたっていうの、私のことを!」
眼球を飛び出させ、顔を真赤にしてまくし立てる彼女を、看護士が必死にいさめようとする。
母が何度か割って入ろうとしていたが、すんでのところで昂輝はそれを静止した。面倒なことには巻き込まれてほしくなかった。
それに、昂輝は気がついていた。声を荒らげて叫ぶ彼女の頬に、涙が流れた跡が薄っすらと残っていることを。
しかし、その数時間後。
彼女が昂輝の恋人であること、事故の唯一の目撃者だったことを医師から聞いた。
──恋人に忘れられていたことが、ショックだったのでしょう。
あの後別室に連れて行ったら、少し間を置いて落ち着いたらまた来ますと、そう言っていましたよ。
そして、のちに昂輝は知ることになる。
彼女の名前と、自分との詳細な関係性。
二人でどんなふうに過ごしていたのか、ということを。
それが星野沙月との、「二回目の出会い」だった。
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