ダイヤモンド

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 ここは、とある県の片田舎にある大塚高校。野球部は県内では強豪だが、なかなか甲子園に届かなかった。だが、去年の秋に秋季大会で好成績を収め、選抜高校野球への出場が噂されている。  今日はその発表がある日、校長室では校長がその電話を待っている。校長室には報道陣がいて、電話を待っている。誰もが、高野連からの電話を楽しみに待っている。  突然、電話が鳴った。それを聞いて、校長はすぐに電話を取った。恐らく、高野連からだろう。 「もしもし」 「本日、センバツ高校野球の出場が決定しました」  電話は高野連からだ。校長の予想は当たった。春夏通じて初めての出場だ。 「ありがとうございます。喜んでお受けいたします」  校長は笑みを浮かべて、電話を切った。早くそれを野球部に知らせないと。校長は校長室を出て、野球部が練習を行っている運動場に向かった。  運動場ではいつものように野球部が厳しい練習をしている。そんな野球部を指導しているのは漆生大輔(うるしおだいすけ)。この高校のOBだ。  大輔も笑みを浮かべている。今日、選抜高校野球の出場校が明らかになる。ひょっとしたら、練習中に吉報が来るかもしれない。 「集合!」  校長の姿を見て、大輔は部員を呼んだ。その声を聞いて、部員は大輔の元にやって来る。 「本日、選抜高校野球選手権大会の出場が決まりました! おめでとう!」  校長の言葉を聞いて、部員はみんな喜んだ。届きそうで届かなかった甲子園にやっと出場できる。 「よっしゃー!」  部員は帽子を上に飛ばし、互いに喜び合った。これまで頑張ってきた事が報われた。やっと甲子園に行ける。  大輔も喜んでいる。自分もなしえなかった母校の甲子園。だけど、かわいい後輩がそれを叶えてくれた。選手たちに本当に感謝したい。  その夜、教員達は居酒屋で祝賀会を行った。もし決まったら、居酒屋で飲んで祝おうと思っていた。 「選抜出場に、カンパーイ!」  校長は彼らの前に立ち、コップに入ったビールを掲げた。教員たちは、それを見ている。 「カンパーイ!」  校長の掛け声とともに、教員もビールの入ったコップを掲げた。そして、みんな飲んだ。 「監督、今日はよかったですね!」  今日の祝賀会の主役は大輔だ。だけど、こうして祝賀会が開けるのは、自分の練習についてきてくれた部員のおかげた。 「これまでの頑張りが評価されたんだね」  大輔はコップ1杯のビールとあっという間に飲みほした。隣にいる教頭がコップにビールを注ぐ。 「いやいや、本当に感謝したいのは選手だよ。俺の練習にしっかりついてきて、試合で結果を出したからね」  大輔は照れている。本当に祝ってほしいのは選手なのに、自分が一番祝ってもらっていいんだろうか? 「今日は思いっきり飲んで祝おうじゃん!」 「うん!」  大輔は再びビールをコップ1杯飲みほした。みんな幸せそうにその様子を見ている。 「さぁさぁ、監督どうぞ」  今度は校長先生からビールを注いでもらった。まさか校長からも注いでもらえるとは。本当に幸せだ。 「ありがとうございます」 「いやー、すごいよなー。かつて高校のキャプテンだった漆生がこうして監督で初出場に導くって」  大輔は高校時代、野球部のキャプテンだった。そして、県内屈指のスラッガーとして注目されていた。大輔はプロになりたくて、プロ志願届を提出し、ドラフトを待った。だが、大輔を指名する球団は現れなかった。大輔は大学に進学し、大卒でプロになろうとした。  だが、大学2年の頃、大けがをし、野球を諦めざるを得なくなった。だが、その経験を生かして母校を甲子園に導きたいと思い、教員になったという。 「うん。出れなかった悔しさも、プロになれなかった悔しさもこれで晴らせたかなって」  大輔は晴れやかだった。子供の頃からプロ野球選手になりたいと思っていたのに、叶わなかった。とても辛い日々を送ってきた。だが、今日でその悔しさ、辛さを晴らす事ができた。 「きっと晴らせたよ!」 「今日でその悔しさが、全て断ち切られたようで、嬉しいよ」  この夜は、みんな喜んでいた。だが、本当に喜んでいるのは、大輔だ。  その頃、高校から少し離れたとある家で、1人の女性が選抜高校野球のニュースを見ている。板倉綾香(いたくらあやか)だ。彼女は大塚高校の卒業生で、大輔の初恋の人だ。だが、初恋の事は今日まですっかり忘れていた。  今日、選抜高校野球のニュースが入って、綾香は初恋の事を思い出した。甲子園に行けたら、プロポーズしようと思っていたのに、出られなくてプロポーズできなかった。 「どうしたの、綾香」  綾香が振り向くと、そこには母がいた。 「いや、何でもないの」 「そう」  母は去っていった。母は首をかしげた。何を考えているんだろう。  翌日、大輔は酔いがさめない状態で朝から練習を見守っていた。今日は学校は休みだが、野球部は休みではない。選抜高校野球のためのより一層厳しい練習は続く。  その頃、大輔の実家に、綾香がやって来た。大輔に何かを言いたいようだ。 「ごめんください」  突然、誰かがやって来た。こんな時間に、誰だろう。セールスだろうか?  大輔の母は玄関にやって来た。そこにいるのは、若い女性だ。誰だろう。大輔の母は首をかしげた。 「はーい。あら、どなたですか?」 「板倉綾香です」  板倉綾香・・・。聞いた事のない名前だ。誰だろう。 「あら、どなた?」 「大輔さんの高校時代のクラスメイトです。会いたいなと思って」  大輔の母は驚いた。選抜高校野球の出場のお祝いだろうか? まだ祝福したい人がいるとは。 「そう。大輔、今、高校にいるの。野球部の指導をしてるわよ」 「そうですか。ありがとうございます」  綾香は少し残念がった。だが、すぐに前を向いた。早く高校に向かわないと。そして、今の気持ちを伝えないと。  その頃、高校のグラウンドでは、野球部が練習をしている。出場が決まって以降、出場する高校の名に恥じないように練習をしている。全国レベルの高校がやって来る甲子園だ。対等に戦えるように頑張らないと。  大輔は、温かい目でそれを見守っている。彼らが甲子園の土で最高のプレーをする姿を夢に見ながら。 「大ちゃん?」  大輔は振り向いた。そこには綾香がいる。卒業式以来だ。まさかここで再会するとは。 「あれ? 綾香じゃないか。どうしたんだい?」 「選抜に出ると聞いて、来ちゃった」  綾香は笑みを浮かべた。今もこうして野球に情熱を注いでいるのを見ると、嬉しい気持ちになる。 「そっか」 「おめでとう」  少し遅れたけど、出場できた事を祝福しないと。 「ありがとう」  と、綾香はある事を提案した。ここの近くにある喫茶店で、2人で話したいな。 「一緒に話さない? あれ以来、会ってなかったでしょ?」 「うん」  突然だが、大輔と綾香は喫茶店で2人で話す事になった。大輔は少し戸惑ったが、たまにはそんなのもいい。  大輔は高校に連絡して、しばらく喫茶店で2人で話す事にした。この時間帯の喫茶店は空いていて、静かだ。 「そっか。プロになれなくて、大学に進学したけど、大学で大けがをして野球を諦めたのか」  綾香は高校を卒業してからの大輔の事を知らなかった。まさか、大学でこんな事があって、プロ野球選手になるのを諦めたとは。あれほど、プロ野球選手になりたいと言っていたのに、叶わないのは辛いよな。 「うん。だけど俺、野球が好きだから。野球しかないんだと思ったから、高校の野球部になったんだ」  だが、大輔はプロ野球選手になれなかったことを悲しく思っていない。野球部の監督として選抜高校野球の出場が決まったのだから。 「ふーん。私は高校を卒業してすぐに別の人と結婚したの。だけど、夫が不倫したから離婚したんだ。あれ以来、誰とも付き合っていないんだ」  綾香は高校を卒業後、同じ高校の別の人と結婚した。そして、子供に恵まれた。だが、夫が不倫をしたために離婚した。子どもは父が育てる事になり、再び両親との生活に戻った。もう恋なんてしない。男はいつか不倫するものだと思い始めていた。 「そうなんだ。僕は君と恋をして以来、全く恋をしてなかったんだ」  大輔は高校で綾香と分かれて以来、初恋をしてなかった。どんな女性よりも、綾香ほど愛しい人はいないと思っていたからだ。 「どうして?」 「君の事が忘れられなかったから」  綾香は驚いた。まさか、私の事をまだ覚えていたとは。高校を卒業したら恋は終わったので、忘れたと思っていた。まさか、まだ忘れる事ができないとは。 「そうなんだ。また一緒になりたいと思ってる?」 「うん」  すると、綾香はポケットからある物出した。それは、輝くダイヤモンドだ。それは、離婚した夫が付けていたもので、離婚した時に取り外したそうだ。 「じゃあ、これ、あげる」 「えっ!?」  大輔は驚いた。まさか、指輪をもらうとは。本当にこんな僕でもいいのか? 「あなたがダイヤモンドで輝く姿、見たいから」  綾香は高校の頃から、大輔が野球で頑張っている姿が好きだった。時を経て、また野球で頑張っている姿を見て、あの時の事を思い出した。そして、この人の夢を応援したい、一緒に暮らしたいと思ったようだ。 「本当?」 「うん」  綾香はうなずいた。この人なら、ずっと一緒に生きていけるかもしれない。 「ありがとう。甲子園で、必ず輝いてみせるから、待っててね」  大輔は笑みを浮かべた。まるで高校の頃のようなすがすがしい笑顔だ。あの頃と全く変わっていない。あの時と同じように恋をしよう。そして、大輔の野球への夢を応援しよう。いつか、あのダイヤモンドのように、輝けるように。
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