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「携帯。今の時代でガラケーに6万もかからないって。下手したら、やり方によっては3万前後で買えるんじゃない?」
「…孫にも言われたが、分かんねえんだから仕方ないだろう」
一応はお孫さんとも連絡は取れているのか。
歳や性別もいっさい知らないが、フルーツ缶の汁を飲みながら「お孫さんも心配してたでしょ」と、言ってみる。
「少し前にここに来たぞ」
「そうなの?お孫さんだけ?」
「ああ。買ったばかりで音が小さいって話したら来てくれてな、設定してくれた」
「…いいお孫さんだね」
ほんの少しだけホッとした。
松原さんを気にしてくれている身内がいることに。
こんなこと言ったら余計なお世話だと一蹴りされてしまうかもしれないが、かなり肩の荷が下りた。
「その孫がここに来るとか何とかでな」
「え?来るって、また遊びに?」
「いや、こっちで暮らすんだと」
「ここ?松原さんと?」
「そうさ」
早くて来年の初めには来ると言っているらしい。
そしたら俺はこうして優雅にみかんを頂くことはできくなくなるな、と思ってしまった図々しさ。
でも俺はここでも安心した。
このまま松原さんはずっとひとりなのかと不安はあったから。
孫が来てくれるなら安心だ、もしかすると介護をしに来たのかもしれない。
なんて言うと「まだまだ俺は大丈夫だ」と強めに返ってきそうだから、言わないでおいた───。
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