11月

9/17
前へ
/290ページ
次へ
「あー、おかえり~」 「…由香(ゆか)?また来たのかよ」 「またって何よー。収穫の手伝いしたんだけど?」 「そりゃどうも。だとしてもタダじゃないぞ、それ」 この地の特産物であるリンゴをしゃくしゃくと食べる幼なじみ。 ここは俺の実家だと言ったところで聞きやしないのと、由香も独り身だからか、俺の両親たちは皆して彼女に優しくする。 いずれ嫁に迎え入れる気でいるんだろう。 俺は幼なじみ以上に見ることは無理だろうと確信しているため、そんな気は起きる気配すらないのだが。 「仕事、慣れたか?」 「ん~、まあ普通だよ。フォーマットがあるから、その通りにやってればいいだけ」 由香は隣町の大学へ行って、そこで一度は就職したが数年前に戻ってきては、こっちでも何度も職を変えている。 今はようやく携帯ショップで落ち着いたみたいなのだが、こうしていると幼なじみというよりは兄妹のような感覚だ。 保育園から一緒だからこそ、これはもう染み付いた慣れというもの。
/290ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加