1月

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意外だ、わりと話を広げてくれる。 仕事でも若い世代とは関わりを持たない俺は、言ってしまえば偏見だらけだった。 それに都会から来ている、さぞかし何もなくてつまらない町だと思ったことだろうと。 もっと素っ気ない返事を予想していたのだが、一緒になって微笑みを見せてくれた。 それだけで自分の惨めさのようなものを小さく痛感する。 「そこにあった自転車は買ったんですか?」 「…あ、はい。車の免許を持っていないので…とりあえず買いました」 「あー、東京は電車が便利って聞きますからね」 ってことは、いずれまた帰るということだろうか。 松原さんは「ここで暮らす」と言っていた気がするが。 不自然にならないように部屋を見渡すと、彼女のものだろう荷物が置いてあった。最低限と言ったところか。 本当にここで暮らすんじゃないかと思えるし、数日だけの荷物の可能性もある。 「お孫さんが来てくれて松原さんも喜びますね」
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