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そのなかでもせめて善に生きようとし、誰かに尽くす人生をゆっくり、ぎこちなく、不器用に歩いていた彼女は。 きっと、この町で、ひっそりと、死のうと思っているんだと。 たったそれだけのために、この田舎にたったひとりで来たのだと。 「ましろ、…ましろ」 何度も何度も呼ぶ。 欲しくて欲しくてたまらなかった名前を。 あまり声は出さないんだなと思った。 たまに出たかと思えば、泣くような嬌声(きょうせい)。 それがなんとも彼女らしくて、いとおしい。 「……もう、会いません、2度と…会わない、やだ、やだ」 「…って思ってる涙じゃないだろ」 ここにあなたの幸せはあるんじゃないですか、ここで未来を作ることができるんじゃないですか。 なのにあなたはどこへ行こうとしているんだ。 ────この数ヶ月後、彼女は自殺を図った。 それがあなたにとっての幸せな最期だったというのなら、望んだ結末だったというのなら。 だとしても。 「今度は俺のために生きてはくれませんか」などと思いながらこのとき抱いてしまった俺に、神は制裁を与えやしないだろうか。
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