11月

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日中はレースカーテンもしていないため、外から覗くと出窓の先に繋がる居間が丸見えだ。 そこに座るお爺さんは俺の姿を確認すると嬉しそうに笑って、立ち上がってまでも反応してくれる。 「だいぶまた古さが際立つようになったなあ」 まるで我が家のように思いながら砂利道を歩いて、自然のなるままに生えた柿の木を避け、玄関がある奥へと足を踏み入れる。 周りは新しい家が建ち並んでしまい、こうして足を運ぶたびに埋まってしまう平屋。 彼がいなくなったらこの家はどうなるんだろうと考えると、どこかわびしい。 「今年はそこまで育ちそうにないな」 「柿?でも実がなってるのはあるよ。勿体ないなあ」 「なら取ってくか?」 「ああ、いいよ大丈夫。落ちたの拾ってくから」 ちょいと言ってみただけで腰を上げてしまうから、すぐに止める。 冗談めかしに笑ってみれば、それはそれで「落ちたのなんか汚いぞ」と言って、また立ち上がろうとしてしまう爺さん。 やりたがりというか、動いていないと気が済まない人というか、もう少し年寄りらしくしたらどうだとも提案したくなる。
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