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◇
外では花火が上がっていた。
ドン、ドン、と心臓を叩いてくる深い音。
電気すら付けていない暗がりのなか、エアコンの風が当たりすぎていないかと不安はあるが、リモコンは遠い。
花火がひとつひとつ上がるたびにベッドがきしんで、俺は彼女の長い黒髪をそっと退かす。
「あのまま俺が来なかったら、ついて行ってたでしょ」
「…はい」
「完全に襲われてましたよ」
「…もうそれでいいって…思ったから、」
「ふざけんな」
相手は1人だけじゃなかった、3人はいた。
どんな乱暴をされていたか分からない。
今よりずっとずっとひどいことをされていたかもしれない。
あなたは目立たないようで目立ちすぎるのだから。
「綺麗だ」
見下ろしてつぶやいた俺に、彼女は涙を流して首を横に振る。
「みないで、みないで」と繰り返して。
「きれいじゃ、ない」
「…どこが綺麗じゃない?」
「……ぜん…ぶ」
こんなやり方であっていただろうか、間違ってはいないだろうか。
言葉では「優しくできない」などと言ったが、まるで初めてを経験した日のように戸惑いながら、情けなくもつたない動作で彼女の身体を無我夢中に貪った。
もう一度、唇を重ねても許されるだろうか。
「…だめ、です」
「どうして?」
「……そんなの、許されない…から」
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