《真仁の夜》

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《真仁の夜》

 麻琴がいない、本当に静寂の部屋。  聞こえてくるのは、(かす)かに雨が降る音。  彼女は演じてくれていた。俺の心を覗きながら。  二人が互いを賭けた()()。別の恋を始めようなんて気持ちは微塵もない。麻琴よりも良い女なんているわけがない。そのぐらい麻琴だけを求めていた。  ただ、二人は一度壊れなければならなかった。得体の知れない魔物よ、見せてやったろう、あんなにも泣きそうな彼女の顔を、こんなにも苦しい俺の思いを。  俺たちは、この恋を必ず戻すよ。  一年間の猶予は、どんなに長く見積もっても、という話だ。  二人は二人だから二人であって、二人であるから未来がある。  麻琴が部屋を出た瞬間、静寂の奥の方へ魔物が去って行く音が聞こえた。あいつはまた別の恋を不幸にするために忙しくなり、もうここへは戻ってこないだろう。  俺は微かな雨の音を聞きながら、スマホの通話を麻琴につなげた。 「作戦成功だ。もう二度と、俺たちを苦しめる魔物は現れない。早く帰ってこい。おまえがいる場所はここしかないんだから」  言うと、麻琴はを欲しがった。  言葉の貯蓄はいくらでもある。おまえが聞き飽きるまで言ってやるさ。 「──麻琴、大好きだ」                                      (了)
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