33人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
《真仁の夜》
麻琴がいない、本当に静寂の部屋。
聞こえてくるのは、微かに雨が降る音。
彼女は演じてくれていた。俺の心を覗きながら。
二人が互いを賭けた偽言。別の恋を始めようなんて気持ちは微塵もない。麻琴よりも良い女なんているわけがない。そのぐらい麻琴だけを求めていた。
ただ、二人は一度壊れなければならなかった。得体の知れない魔物よ、見せてやったろう、あんなにも泣きそうな彼女の顔を、こんなにも苦しい俺の思いを。
俺たちは、この恋を必ず戻すよ。
一年間の猶予は、どんなに長く見積もっても、という話だ。
二人は二人だから二人であって、二人であるから未来がある。
麻琴が部屋を出た瞬間、静寂の奥の方へ魔物が去って行く音が聞こえた。あいつはまた別の恋を不幸にするために忙しくなり、もうここへは戻ってこないだろう。
俺は微かな雨の音を聞きながら、スマホの通話を麻琴につなげた。
「作戦成功だ。もう二度と、俺たちを苦しめる魔物は現れない。早く帰ってこい。おまえがいる場所はここしかないんだから」
言うと、麻琴はあれを欲しがった。
言葉の貯蓄はいくらでもある。おまえが聞き飽きるまで言ってやるさ。
「──麻琴、大好きだ」
(了)
最初のコメントを投稿しよう!