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少女の住む静かな塔には、一日で四季が来た。
少女の住む静かな塔には、一日で四季が来た。
天井近くの小さな窓から山桜がひとひら舞い込んだ。
頬を擽られた少女は、堪えきれずにくすりと笑い寝台から降りる。うんと大きな伸びを一つ、一杯のミルクと麻袋を取った。
素足に石畳の床は冷たい。つま先立ちでひょこひょこ歩く。
壁に立てかけた梯子の先にはレンガをくり抜いた窓があった。
軋む梯子を上りきると、一番澄んだ風が吹く。はるか遠くの山のふちが桜鼠色に染まる頃、頂はそうっとやぶいた和紙のようにふんわりと消えかかっていた。
まろい光が頬を撫でる。降り注ぐ少女の髪が靡く。
少女は窓辺に腰掛けた。麻袋から麦をひとつかみ、煉瓦のうえにぱらりとおとす。すると少女の友人たちは愛らしいさえずりと共に窓辺に降り立った。
朝、春の色に染まる。
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