1.転校生

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1.転校生

 小学五年生の夏、僕のクラスにちょっと変わった子が転校してきた。見た目は普通のおかっぱ頭の女の子。でも最初の挨拶からしておかしかった。 「磯田(いそだ)美紀(みき)です。私、幽霊が見えます」  ニタニタ嗤いながらそんなことを言う磯田を皆ぽかんと口を開けて見ている。すると先生が慌てててとりなした。 「あらまぁ、磯田さんってば面白いわねぇ。さ、席はあそこよ」  だが磯田は指差された席をしばらく眺めていたかと思うと首を横に振った。 「座れない」  どうして? と困ったように聞く先生に磯田は言う。 「あの席、座っている人がいるし」  無論先生の言った席には誰も座ってなどいない。一瞬静まり返った教室はひとりの女子生徒があげた悲鳴で大パニックとなった。当の磯田はそんなクラスメイトたちを見てニタニタ嗤っている。 「ほら、落ち着いて落ち着いて! もう、磯田さんも冗談ばっかり言ってないではやく座りなさい」  少し苛ついた口調で先生が言うとようやく磯田は「はぁい」と言われた席についた。何のことはない、やっぱり誰かが座ってるなんて嘘だったんだ。 「あーあ、すっかり騙されちゃった」  一時限目の授業が終わるとクラスの女子数人が磯田を取り囲む。 「私、嘘なんて言ってない」  口をへの字に曲げて磯田が言うと女子のリーダー格である金森さんが鼻で嗤った。 「何言ってのよ、結局あんた普通に座ってたじゃない」  だが磯田も負けてはいない。 「ああ、どいてもらったから」  それからも磯田の奇妙な発言は続いた。最初の頃は心霊好きな生徒が「ホントに見えるの?」なんて聞いたりもしていたが、そのうち「ソウリダイジンが家に相談しに来るんだ」とか「この前アメリカの一番偉い人がお祓いに来た」とかすぐに嘘だとわかるようなことばかり言い出すようになると皆呆れて近付かなくなった。付いたあだ名はウソダ。彼女はそんな風に呼ばれるようになっても一向に気にする様子もなく、いつもニタニタと嗤っては奇妙なことばかり言うのだった。
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