優しいネクタイ

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 そして、すぐさま思い出を振り払った。 『あー、今まで大変だった』 『ほんとお疲れさまー』 『愛重すぎんだよ。一昨日のケンカの内容きいてる?』 『うん、きいた。“出会って67日記念日”を、佳音ちゃんが忘れたってやつね。  というか、もともと知ってるよ』 『あ、そっか。あなたに言われて、敢えて忘れたフリしたんだもんね。別れる口実を作るために。  ていうか、“出会って67日記念日”ってマジで意味不明。全然記念じゃないし。そもそも、毎日記念日記念日って、うるさいんだよ。「忘れたフリ作戦」、もっと早くやればよかったー』 『確かにちょっと待ちすぎちゃったよね、ごめんね』 『いいよいいよ、あなたは全く悪くない。悪いのは全部彼。  こっちが電話しなくなった途端、毎日何度も何度も電話かかってくるし、うざいったらありゃしない。この一か月、どれだけ離れようとしても、彼は自分からぐいぐい寄ってくるし……。  あー! 思い出しただけでイライラする!』 『そのうざさからも、今日でもう解放だね』 『本当に感謝してるよ』 『いやいや、当然のことをしたまでだよ。  ぼくは、“佳音ちゃんが彼を「疎ましく」思う気持ち”から生まれたからね!』 『そういえば、あなたはこれからどうするの?』 『うーん、そうだなあ……。  佳音ちゃんのように、彼の愛の重さに困っている子が現れたら、今回みたいに助けてあげようかな!』 『おっ! それいいね~。よろしく頼むよ』 『任せといて!』 『今回、もし彼と別れられなかったとき用に考えてた「最終手段」。いつか使う日が来ちゃうかな?』 『んー、一応彼は、相手の幸せまで考えられるタイプみたいだし、来ないと信じたいなあ。  でも、もしそのときが来たら……』 『来たら?』 『警察の人はきっと頭を悩ませちゃうよね。  まさか犯人が、彼の首に巻き付いたネクタイ自身だとは思わないだろうし☆』
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