優しいネクタイ

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『……もしもし?』 『佳音ちゃん! ぼくだよぼく!』  電話越しの無邪気な声をきいて、佳音は思わず微笑んだ。 『……ああ、びっくりしたよ。  これ、彼の携帯だよね? 前からずっと気になってたんだけど、どうやって開けてるの?』 『指紋だけ拝借したんだ。一回寝ちゃうと彼、なかなか起きないでしょ?  あとはタッチペンで操作してるんだよ』 『なるほど。相変わらず器用だね。  それはそうと……、3日ぶりだね。元気だった?』 『元気だよ! 佳音ちゃんはどう?』 『私も元気だよ。  ……今日はお礼を言わなくちゃいけないね。ありがとう』 『ってことは、今日、別れたんだね?』 『……うん』 『……そっか。帰ってくるなりベッドに倒れこんで、そのまま寝ちゃったから、なんにも聞けなかったんだよね。だから安心したよ』 『あなたのおかげだよ。  私が『別れよう』って言っても、きっと彼はきかなかっただろうから。  第三者の視点から、彼に伝えてもらいたかったんだ』 『そうだねー。ぼくが言ったときも、結構ショックうけてたみたいだったし』 『まあ、まさかその第三者がネクタイになるとは、思ってもみなかったけど』  佳音は軽く笑った。つられてネクタイも笑う。 『でも、無事に別れられたようで、本当に良かったよ』 『ありがとう。  ……これが、私にとっても彼にとっても、幸せな道だからね』 『……うん。ぼくもそう思うよ』  優しい声に、佳音はゆっくりとうなずいた。  これからのふたりの未来に、思いをはせながら。  彼との思い出を、かみしめながら。  
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